キャリア20年のF1エンジニア・小松礼雄に聞く「いいドライバーの条件」過去No. 1は誰? (2ページ目)

  • 熱田 護●取材・文 text by Atsuta Mamoru

【ルノー時代のアロンソがナンバーワン】

ーー小松さんはこれまでに複数のチームに所属し、多くのドライバーと一緒に仕事してきています。すごいと感じたドライバーは?

 ナンバーワンはルノー時代のフェルナンド・アロンソ選手です。雨でもドライでも速いし、どんなクルマでも能力を100%引き出してしまうんです。

 2010年にルノーで一緒に仕事をしたロバート・クビサ選手も印象的です。当時、僕はロバートのチームメイトだったヴィタリー・ペトロフ選手の担当でしたが、ロバートは速さがあり、レースに対する情熱もすごかった。

 ロバートは将来のワールドチャンピオンになると思いましたね。彼が加入する前年(2009年)にアロンソはチームを離れてしまいましたが、僕たち技術陣がいいクルマを提供することができれば、ロバートはタイトルを狙えると思いました。

 天性の能力ではロマン・グロージャン選手がすごかった。でも、残念なことに彼はその能力を活かしきれなかった。2012年にロマンはロータスでキミ・ライコネン選手と組んでいて、その年のモナコGPでライコネンよりもコンマ7秒も速かった。当時のライコネンはドライバーとしてのピークこそ過ぎていましたが、まだまだ速かった。その彼でさえ、モナコではロマンにまったくかなわなかったですからね。

ハースのマシン photo by Atsuta Mamoruハースのマシン photo by Atsuta Mamoruこの記事に関連する写真を見るーーグロージャン選手は精神的なもろさがあって、天性の速さを活かせなかった。メンタルの強さも大事ということですね。

 そのとおりです。ロマンがF1の世界で成功できなかったのはドライビングが原因ではありません。原因はメンタルですから、もったいなかったと今でも思います。彼は状況が悪くなると叫んで、自分を見失ってしまう。ドライバーはみんな繊細で、孤独なところがあります。ミスをして自信をなくしたり、チームに対する信頼がなくなったりすると、成績がガクンと落ちる。そういうドライバーをこれまでたくさん目にしてきました。

 エンジニアの視点であえて厳しく言わせてもらうと、なんでそんなにメンタルが弱いのかと感じることがあります。ほとんどのドライバーは子どもの頃からカートを始め、プレッシャーのかかるなかでずっと戦ってきて、頂点のF1までのし上がってきています。F1ドライバーになるまでに数多くの困難や重圧を乗り越えてきているはずなのになぜ、と。自分がチームの中心的な存在でなければ、力を発揮できないケースも多いです。その点、マックス・フェルスタッペン選手を見ていると、速さはもちろんですが、精神的にもタフ。それが彼の強さのベースになっていると思いますね。

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