MotoGPでのホンダ、ヤマハの苦戦要因は他産業の構造的問題と類似? 王者ドゥカティとは大差 (2ページ目)

  • 西村 章●取材・文 text by Akira Nishimura

【日本企業苦戦のワケは】

ドゥカティのスポーティングダイレクター、パオロ・チアバッティ photo by MotoGP.comドゥカティのスポーティングダイレクター、パオロ・チアバッティ photo by MotoGP.comこの記事に関連する写真を見る

 ドゥカティを筆頭とする欧州企業勢とヤマハとホンダの日本メーカーにこれだけの大差が開いている現状は、近年のさまざまな産業分野で日本企業の苦戦や凋落が指摘されることと軌を一にしている感もある。じっさいに、近年のMotoGPでさまざまな技術革新が出てくるのはいつもドゥカティやKTM、アプリリアの欧州企業勢からで、ホンダとヤマハは彼らのアイディアを後追いして追従することで精一杯、という状況だ。「アキレスと亀」の喩えではないが、新しい技術をコピーしたと思ったら相手はさらに新たなものを持ち込んで先へ進んでいる、ということの連続で、これではとても追いつき追い越すことなど叶わない。

 このように日本メーカーの苦戦が続く状況を改善するために、2024年シーズンからは新たな「コンセッション(優遇措置)」ルールが導入されることになった。細部まで説明をすると煩雑になるので今回は概要を述べるに留めるが、このルールではドゥカティとKTM、アプリリアはシーズン中のエンジン開発が凍結されるのに対し、ホンダとヤマハは自由な開発が可能になる。また、その開発を進めるためのテストは欧州勢に厳しい制約を科す一方で、ホンダとヤマハは事実上のフリーハンドで自由にテストを実施できる。

 この新たなコンセッションルールについて、ドゥカティ陣営のスポーティングダイレクター、パオロ・チアバッティは、厳しい状況に追い込まれている日本勢が追いつくために有効な措置になるだろう、と述べている。

「我々は、すべてのメーカーが戦闘力を向上させるために公平なチャンスを与えられるべきだと考えています。従来のコンセッションルールは日本メーカーがレースシーンを凌駕していた頃に作られたもので、そこから時代は大きく変わりました。今ではドゥカティが優勢で、他の欧州勢もそれに迫る勢いです。日本企業の2メーカーにはさまざまな事情があるのでしょうが、現状を脱して追いつき、本来の位置に返り咲かなければなりません」

「スポーツを盛り上げるという見地から、我々は(自分たちに不利な)この新しいシステムを受け容れると決めました。これにより、日本企業の回復もスピードアップしてほしいと願っています。ドゥカティは(2023年に)何度も表彰台を独占しましたし、これからもそれを維持していきたいと思いますが、簡単に達成するのではなく、厳しい戦いの中で成し遂げたほうが満足度もさらに高まることになるでしょう」

 チアバッティの言葉にもあるとおり、この対応で日本メーカーの開発がある程度進むことは間違いないだろう。だが、問題の根幹はひとつひとつのマテリアルの投入自体にあるのではない。日本企業が苦戦しているのは、欧州企業的な進取の気性に富んだスタイル、つまり状況に応じた柔軟な意志決定や権限の委譲、円滑で迅速な連携と臨機応変な軌道修正、といったフラットでスピーディでターゲットドリブンな組織運営という面で、ドゥカティやKTM、アプリリアの後塵を拝しているからであるように見える。

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