ジェンソン・バトン引退。ヘルメットに刻んだキャリア17年間の想い

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki

 ジェンソン・バトンがアブダビのホテルに到着すると、そこには1枚のイラストがあり、キャンバスの一番下にはこう記されていた。

『夢とともに辿り着き、思い出とともに去る』
(Arrived with dreams and leave with memories)

 それはまさに、バトンの心境そのものだった。若いころの抱えきれないほどの夢と、それを実現し、多くを達成した17年間のキャリアが誇らしく、幸福に思えた。

今季最終戦アブダビでの会見で心境を語るジェンソン・バトン今季最終戦アブダビでの会見で心境を語るジェンソン・バトン アブダビGP木曜のFIA会見に選ばれ出席したバトンは、突然こう切り出した。

「おそらくこれが、僕にとって最後のレースになる。僕の目には、最後のグランプリだと映っている。そう思ってこのレースに臨んでいるし、みんなにもそう思ってもらいたいんだ」

 9月のモンツァで、来季の休養と2018年に現役復帰するオプション契約を明らかにしてから2ヵ月半。彼の心境の変化を肌で感じ取っていたパドックの住人たちは、その言葉に驚くこともなく、静かに彼の意志を受け容れた。

「たしかに最後じゃないかもしれない。来年になれば気持ちが変わるかもしれない。でも、最後じゃないかもしれないと思いながら戦って、結局それが最後になるのは嫌なんだ」

 バトンが望んだのは、周りの人々に見送られて笑顔で迎える、幸せな引き際だったのだ。

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