「日本代表への招集を辞退」はあり? 欧州では珍しくない大物選手「招集辞退」の数々 (3ページ目)

  • 中山淳●文 text by Nakayama Atsushi

【90年代以降は勤続疲労の問題が顕在化】

 すると、これに怒り心頭の選手が公に監督批判を展開し、ツィエクは代表引退を発表するという騒動に発展。事態はモロッコが本大会出場を決めた後も泥沼化し、ついにモロッコサッカー連盟は大会直前に主力選手たちとの関係を修復できない指揮官を解任するに至った。

 この連盟の判断が正しかったのかどうかは別として、彼ら主力が復帰したモロッコ代表がカタールW杯で初のベスト4入りを果たしたことは周知の通りである。

 このような選手の代表招集拒否または辞退といった例は、何も人間関係が原因によるものだけではない。

 たとえばイングランド代表では、2021年にユーロに臨むメンバー候補として当時マンチェスター・ユナイテッドで活躍していたメイソン・グリーンウッド(現ヘタフェ)を招集したが、本人はリハビリを理由に辞退。まったくプレーができない状態ではなかったものの、クラブを通して、これ以上の大会への出場は彼にとってのプラスにならないため、今回はケガの完治を優先して代表招集を辞退することを発表した。

 現在レアル・マドリードのジュード・ベリンガムも、2021年10月にイングランド代表の招集を辞退したことがある。当時ドルトムントでプレーしていたベリンガムが辞退した理由は、過密日程による疲労を考慮し、休養を優先したいというものだった。

 とりわけ試合数が急増し始めた90年代以降は、ベリンガムのように選手の勤続疲労の問題が顕在化している。

 もちろん、代表でプレーすることは選手にとっても名誉なこと。無理が効く若手選手などは、疲労を感じないまま試合に出続けてしまい、思わぬケガに悩まされることも多くなっている。ユーロと東京五輪に続けて出場したスペイン代表のペドリ(バルセロナ)などは、その典型と言っていいだろう。

 出場枠と試合数が増加する次大会以降のW杯をはじめ、来シーズンからのチャンピオンズリーグやヨーロッパカップなど、公式戦の試合数は増加の一途を辿る。そんな環境の変化に対し、代表チームの首脳陣と選手たちがウィン・ウィンの関係をどのようにして構築していけばいいのか。日本に限らず、この問題は今後ますます難しくなっていきそうだ。

プロフィール

  • 中山 淳

    中山 淳 (なかやま・あつし)

    1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部勤務、同誌編集長を経て独立。スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカーおよびスポーツメディアに執筆。サッカー中継の解説、サッカー関連番組にも出演する。近著『Jリーグを使ってみませんか? 地域に笑顔を増やす驚きの活動例』(ベースボール・マガジン社)

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