三笘薫「スーパーゴール」の歴史的価値 選手としての価値も2段階は上昇した (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Reuters/AFLO

【正真正銘のスーパーゴール】

 三笘はこの反則まがいのプレーを受け、逆に、相手がパニックに陥っていることを察知したのだろう。精神的に乗った。頭も冴えたかに見えた。

 ドリブラーが次々に選手をかわしていく様は、スキーのスラローマーにたとえられる。短い間隔で立つポール(旗門)を、足を踏み換えながら縫うように、ひらりひらりと舞うように滑り降りる姿を想起させる。セメドの荒いプレーを冷静にかわすことで始まった三笘のドリブルは、まさにスラロームを見るかのような鮮やかさだった。

 残り40メートル。旗門に相当する選手は3、4人いた。だが、三笘にとって幸いしたのは、右センターバック(CB)のクレイグ・ドーソンが、先述のエンシソの動きに幻惑され、サイドに引っ張り出されていたことだ。

 2人のCBの間隔が開いていることを察知するや、三笘は迷うことなく直線的に縦を突いた。トップスピードでありながら、完璧なボディーバランス。そのなかには周囲の敵の逆をとる動きも含まれていた。

 ペナルティエリアに侵入しようとした段で、左CBマクシミリアン・キルマンがアタックに来た。右腕を掴もうとしたが、三笘はウナギのようにスルリと抜ける。するとGKと1対1になっていた。シュートは右足のインサイドで、右ポスト方向へ。そこからカーブがかかりサイドネットに収まるという、寸分の狂いもない技巧の粋が詰まった一撃だった。

 スーパーゴールである。だが、ネット社会となり、見出しで煽ろうとする過剰な表現が散見されるこの世の中にあって、その言葉の重みは失われつつある。どれもこれもがスーパーゴールとして紹介される。この三笘のゴールも、少々誇張の入った表現ではないかと訝しがっている人も多いだろう。

 さにあらず、だ。年に何度も見られない正真正銘のスーパーゴール。それでも表現として物足りない。2023-24シーズンの欧州年間最優秀ゴールはこれで決まりと、開幕2戦目にして言い出したくなるほどだ。何年に1度かのスーパーゴールと言ってもいいほどだ。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る