湘南ベルマーレのタリクが「もったいない」と感じている日本人選手たちの行動とは (3ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi

【将来は若者たちを手助けしたい】

 そんなタリクは今後、どのような未来を思い描いているのだろうか。来年2月には36歳。「年齢を考えず、つい頑張りすぎてしまって」今季3度目の負傷を抱えている彼には、現役続行以外のオプションもありそうだ。

「僕はいろんなものに興味があるんだ」と言うタリクは、インタビューが終盤になっても、少年のように目を輝かせている。

「だから今ここで何をしていくと言うのは難しいけれど、たぶん指導者にはならないかな。なぜなら、僕は約20年に及ぶ現役生活で、自分自身と家族の多くの物事を犠牲にしてきた。プロの指導者、特に監督になれば、おそらくまた同じことが続くと思う。でもね、僕はフットボールが大好きなんだ」

 そう言って少し笑い、タリクは続ける。

「ひとつのオプションに、エージェントがあると思う」

 8つの言語を話し、面倒見が良く、温かいハートを持つタリクなら、選手のキャリアを手助けできるだろう。彼にそう伝えると、「でもフットボールの代理人になれば、危うい人々と付き合わなければならない」とタリクは答えた。

「裏切り、カネ、ウソ、そういうものが横行する世界だ。それは僕の望むところではない。僕が何よりもやりたいのは、若者たちを手助けすることなんだ」

──では、フットボールのスクールやチームを作るのかな?

「それもできると思うけど、僕は子どもたちを商売の道具に使いたくないんだ。ヨーロッパでプレーしていた頃、毎夏、子どもたちを集めてキャンプをしていた。多くの人やクラブが手伝ってくれ、僕らはそれをフリー(無料)で開催していた。

 その一方で、1日に何百ユーロも取る団体もあった。自分もそうだったけど、子どもたちはフットボールのためにカネを払うべきではないと思うんだ。それがストリートであろうと、アカデミーであろうと」

──ぜひ、それを日本でやってもらいたい。

「もし日本がノルウェーの近くにあったなら、間違いなくそうするよ。きっと平塚に住み、湘南をサポートし続けるさ。でも僕の家族や親戚(11月8日のチャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド戦で得点したFCコペンハーゲンのモハメド・エリュウヌシは彼の従兄弟だ)は、すごく仲が良いのに、僕らは長いこと会えていないんだ。だからおそらく、ノルウェーで次のステップを踏むことになると思う」

──でも、人生は何が起こるかわからない。

「もちろん。今はこう話しているけど、別の展開が待っているかもしれないね」

 インタビューが始まって、そろそろ90分が経とうとしていた。最後にタリクは「たくさん喋りすぎてしまってごめん」と言って、右手を差し出した。握った彼の手は、柔らかくて力強かった。
(おわり)

タリク 
Tarik Elyounoussi/1988年2月23日生まれ。モロッコのアル・ホセイマ出身。少年時代にノルウェーに移住し、地元のユースチームを経て18歳の時にフレドリクスタFKでデビュー。ヘーレンフェーン(オランダ)でプレーした後ノルウェーに戻って活躍していたが、2013年からはホッフェンハイム(ドイツ)、オリンピアコス(ギリシャ)、カラバフ(アゼルバイジャン)、AIKソルナ(スウェーデン)と、さまざまな国でプレー。2020年シーズンから湘南ベルマーレに所属する。FWとMFでプレー。2008年からノルウェー代表に選ばれ、国際Aマッチ60試合出場10得点。

プロフィール

  • 井川洋一

    井川洋一 (いがわ・よういち)

    スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。

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