初の2桁得点でサガン鳥栖へ移籍。富樫敬真が見つけた「自分らしさ」と、捨てられない「日本代表への思い」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO SPORTS

【「自分のよさは味方との調和」】

 それで気づいたんです。自分はゴールという結果、数字を求めると、うまくいかなくなるって。数字を伸ばさないといけないって思うことで、とれなくなるんです」

 開幕以降、コンスタントに得点を決めてきたところで、いつしか数字に執着するようになっていたという。そして5月21日の大宮アルディージャ戦を最後に、2カ月近くゴールがなくなった。本能的に振れていた足が振れなくなり、スランプに陥った。

「数字を求めて(得点を)とれる人もいると思います。でも、自分はそうではないことが初めてわかりました。先を見てしまうんでしょうね。それで目の前の集中ができず、熱意だけが行き場もなくさまよう感じ。瞬間に集中するだけで周りも見えるし、足も振れるんです」

 7月のいわてグルージャ盛岡戦で、富樫はその境地に辿り着いたという。サイドから差し込まれたボールを、エリア内でゴールに背を向けて受けると、感覚的に利き足ではない左足の方へコントロール。反転から流れるような動きで、左足を振ってゴールネットを揺らしていた。味方とタイミングを合わせるためにダッシュしすぎず、少し減速したことが功を奏し、逆側へのターンもスムーズにできた。

「何も考えないんですが、それでも味方のことは考えていて、すべてがつながってゴールができました」

 それは本能と論理が融合した"彼らしいゴール"だった。

 富樫は上半身が強く、遠目からのヘディングを放り込むほどの豪快さも持ち合わせる。しかし、点取り屋のエゴを表に出すタイプではない。むしろ協調性が高く、周りを生かし、生かされながら、よさを出すタイプだろう。礼儀正しく、理屈で考え、「空気を読む」タイプで、そのキャラクターが「優しすぎる」ように映ることもあった。それが点取り屋としての物足りなさでもあったのだ。

 しかし富樫は仙台で戦うなかで、その着地点を見つけた。

「いい時の自分、その回数を増やせるようにしたいですね。7年かかりましたけど」

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