「元バルサと言わないで」。鳥栖低迷脱出の原動力、クエンカの成長 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 松岡健三郎/アフロ●写真 photo by Matsuoka Kenzaburo/AFLO

 ひとつ難があるとすれば、守備の部分だろう。サイドバックとの距離感が悪く、しばしば背後を取られる。あるいは下がりすぎて、侵入を許す。サイドの選手は、「中へのパスコースをカットし、侵入を許さない」というふたつの役割を同時に果たす必要があるが、守勢では不安定さを見せる。守備面の弱点は、攻撃重視のバルサ下部組織育ちの選手の特徴でもあって、それはヴィッセル神戸のMFセルジ・サンペールにも共通する。

 ただ、攻撃の部分ではまだ力を秘めている。たとえば、試合のなかで10分間でも本来の右サイドでプレーした場合、相手は動揺を起こすだろう。スピードは失っているが、ひとり外してからのクロスの質は健在だ。ゴール前に近づいても、技術精度は落ちず、むしろ上がる。

 第13節の鹿島アントラーズ戦では、両チームで最多の3本のシュートを放った。迫力のあるカウンターからのミドルシュートは、相手選手の手に当たったようにも見えた。

「あれはハンドだったよね? 本当はPKだよなぁ。笛はならなかったけど」

 クエンカは口惜しそうに言い、相好を崩した。3連勝した余裕だろうか。もともと陽気な人柄で、チーム内でも人を楽しませるのを好む。自由奔放な感覚は、スペイン人よりもブラジル人に近いかもしれない。

「連勝に満足せず、次につなげる準備をしなければならないね。まだ始まったばかり。これからがスタートだよ」

 スペイン人MFは、"元バルサのクエンカ"ではなく、"鳥栖の、あるいはJリーグのクエンカ"になれるか。

 5月31日、鳥栖は本拠地にスペイン人監督ミゲル・アンヘル・ロティーナが率いるセレッソ大阪を迎える。



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