菅原由勢「犠牲にしたこともある」13歳で「この道で生きていく」と誓った男は10年後にオランダNo.1右サイドバックとなった (2ページ目)

  • 中田 徹●取材・文 text by Nakata Toru

【菅原はオランダで最もチャンスを作っている選手】

 菅原のパスには味方への優しさが詰まっている。敵のミスを突く狡猾さがある。そこに他人への思いやりと、職業人としての矜持が宿っている。13歳で立てた決心の積み重ねが、AZと日本代表でのプレーひとつひとつに現れている。

 2021年の東京オリンピックのメンバー選考から漏れた菅原は、2021-2022シーズン、AZで鬼気迫るプレーを披露し続けたが、無理がたたってひざを痛めた。2022年6月、菅原は2020年10月以来、久々にA代表に選出されたものの、ひざの手術のため辞退しか選択がなかった。

 その後の半年間、AZでのプレーでアピールし続けて、代表入りへ猛スパートを仕掛けた。しかし、カタールワールドカップのメンバーに選ばれることはなかった。

 カタールの地で日本は、ドイツやスペインを破るセンセーションを起こした。だが、AZのチームメイトは菅原のことを慮(おもんぱか)ったのか、ほとんど話題にしなかったという。

 2023年の年頭、菅原は「攻守において、自分がオランダリーグで右サイドを制す」と誓った。敵の左ウインガーに1対1で勝つ、自分の特徴であるオーバーラップの回数を増やすことなどを課題として、サイドバックとしてのレベルアップを図った。

「スペイン、ドイツに勝った試合を目に焼きつけました。サッカー選手として、そこに自分がいなかったことが許せなかった。『今度は絶対に、僕が試合に出てベスト16の壁を破る』という強い気持ちが芽生えました」

 一方、菅原はAZでジレンマを抱えていた。

 AZに入団して以来、久しくチームでは左サイドがチームのストロングポイントであり、右サイドで菅原が遠くから手を振っても、肝心な場面でボールが回ってくることは乏しかった。しかし今、AZの攻撃の42パーセントは右サイドから生まれている。

『フットボール・インターナショナル』誌(12月17日付ウェブ版)によると、今季のオランダリーグで最もチャンスを作っているのは菅原だ。オープンプレーからのクロス成功回数も1位。FK・CKのキッカーを任されている今季、セットプレーでのチャンスメイクの回数は3位である。

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