世界に置いていかれる日本女子サッカー W杯上位国とはリーグの盛り上がりに大きな差 (2ページ目)

  • 石井和裕●取材・文 text by Ishii Kazuhiro
  • photo by Getty Images

【スペイン女子サッカー躍進の理由】

 まずは、今大会優勝の、スペインの女子サッカーが躍進した理由について見てみよう。

 異なる立場の2人の意見を紹介する。まずはリーグ側。リーガF(スペイン女子プロサッカーリーグ)のペドロ・マラビア・サンチス戦略本部部長だ。ラ・リーガ(男子リーグ)がリーガFと密接な関係を築き、マーケティング面をリードし始めてからスペイン女子サッカーの本格的な躍進が始まったという。

「クラブが『2つのトップチームを持つ』という意識が重要です。日本では『トップチーム』というと男子を指すと思いますが、男子も女子もトップチームなのです。当然クラブの価値は2倍になり、結果的にクラブが得をする」(サンチス氏)

 クラブ側には少し違った意見もある。話してくれたのはビジャレアルCFに勤務する佐伯夕利子氏。佐伯氏によれば、競技力が高まったことも大きいという。多くのラ・リーガのクラブが既存の女子チームを吸収合併し、保持するノウハウとリソースを女子チームに共有したからだ。そして、リーガFの表明する考えがすべてではないと考える。

「本音と建前がある。綺麗ごとだけで話をしていても女性スポーツの発展はない」(佐伯氏)

 本音とは、リーガFの全16チームが初年度から3年間にわたりスポーツ庁を通じて『次世代のEU基金』から多大な助成を受けていることだ。それ以外にも民間企業からの支援など、いくつもの財源から女子サッカーに資金が投じられている。

「スペインはEUのお荷物と言われないように、国を挙げて欧州先進国に価値の標準を合わせるべく、人権をはじめとする社会の仕組みをアグレッシブに大変革してきました。そこまでしないと欧州で認めてもらえないという、焦りがあったのだと思います。

 時代は変わり、私たちスペインのサッカー界では『我々のビジネスはいまやブランドビジネスではなくなった。レピュテーション(より良いあり方)ビジネスである』と言うようになりました」(佐伯氏)

 社会に大きな影響力を持つスペインのサッカー界はレピュテーションの推進を強いられた。それがサンチス氏の言う「クラブが『2つのトップチームを持つ』意識」につながったと考えられるのだ。スペインでは「女子サッカーが躍進するのは当たり前」という空気が生まれ、世間の女子サッカーへの関心がさらに高まっている。

後編「日本の女子サッカーは何が問題なのか」>>

プロフィール

  • 石井和裕

    石井和裕 (いしい・かずひろ)

    1967年、東京都生まれ。WE Love 女子サッカーマガジン主筆。2006~2007年モックなでしこリーグ冠スポンサー等スポンサー担当者。FIFA女子W杯は2007、2011、2019、2023年を現地観戦。著書『横浜F・マリノスあるある』『サポーター席からスポンサー席から: 女子サッカー 僕の反省と情熱』『日本のサポーター史』等。なでしこリーグ公式サイト『日本全国なでしこリーグの街を訪ねて』『なでしこリーグのSDGs もう一つのゴール』連載。PRSJ認定㏚プランナー。

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