猶本光はなでしこジャパンの先輩宮間あやの背中を追う FKも武器に「1点では終われない」 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 猶本という選手を初めて目にしたのは、U-16女子代表の活動下だった。足回りの高いスキルを持つ、すばしっこい小柄な選手で、何より心のなかにある熱さがプレーから伝わってきた。そして彼女の真っすぐな眼差しが記憶に残っている。U-19女子アジアカップ直前になでしこジャパンの優勝を目にした猶本は、「来年のU-20女子ワールドカップの予選を兼ねているこの大会でも"優勝"っていうタイトルをもらえるんですか?」と聞いてきた。

 憧れのなでしこジャパンが成し遂げた"優勝"を、少しでも感じられるかもしれないと考えていたのだろう。それから12年の月日が経ち、彼女はなでしこジャパンとして、"優勝"を目指せる場所に立っている。

 24歳でドイツに渡り、フィジカル改善を皮切りに、本格的に多くのスキルアップに取り組んだ。結果、ドイツ移籍から1年後には、懐に深く入り込むプレーにエッジが加わり、シュートレンジは広がった。

 浦和に戻ってからは、チーム志向するサッカーに猶本のポテンシャルがフィットしはじめると、ボランチからトップ下、サイドと、プレーの幅はどんどん広がった。そして、WEリーグ2022-23シーズンはその数々の道が1本に集約されたかのように、悲願のリーグ優勝を掴み取った。猶本は優勝の立役者のひとりとして挙げられる活躍を見せたシーズンの勢いをそのままに、今大会に臨むことができている。

「昔だったら速くて、強い選手に対して自分も速くプレーしなきゃ!って慌てていた時もあったんですけど、今はそんなに慌てなくてもやれるっていうのがわかってきて、そこに自信があるから、1プレー1プレーに余裕が持てていると思います」(猶本)

 次の対戦相手はスペイン。ここから相手の強度がますます上がっていくなかで、勝利に重要な1本を決められるか。ここぞの1ゴールが決まれば、きっと彼女の中で何かが突き抜ける。

「そう感じます。今まで何度も挑戦してきて結果に結びついてなかったので、コスタリカ戦のこの得点が獲れたのは大きかったんですけど、1点では終われない!」と、あらためて気合を入れ直していた。

 彼女にはもうひとつ大きな武器がある。フリーキックだ。今大会背負う「8番」はその背中を見てきた宮間あやがつけていたものだ。

「宮間さんの練習を見ていて何かわかったかって言われると、インパクト、タイミングすべてがすごすぎてわからなかったんですけど(笑)、宮間さんの練習量はすごかったと聞きます。スキルを引き継ぐことは難しかったけど、練習量のところはすごく影響を受けていますね」

 現地入りしてからも、猶本は全体トレーニング後のフリーキック練習に余念がない。狙っている場所があるからだ。決勝トーナメントに進めば、なでしこジャパンのスタイルが通用しなくなる場面も増えるだろう。そんな時、セットプレーで彼女のフリーキックが何かを引き起こすかもしれない。「1点では終われない」――決意を新たにした猶本の2点目を待ちたい。

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