江川卓が先取点を奪われテレビ局は「江川が打たれて作新が負けた!」のテロップを準備した (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

「じつは夏の甲子園前に、福田(精一)監督は久留米にいる高名な占い師のところへ行ったんです。そしたら、占い師に紙が入った封筒を渡されたんです。その紙には『1回戦はとてつもないチームと当たります。勝つか負けるかは時の運です』と書かれていました。私もその占い師のところに行って紙をもらうと、そこには『甲子園で守備位置が変わります』と書いてあったんです。そのとおりになったんですよね。作新と当たったし、守備位置も変わったし」

 柳川商はスクイズ警戒のため、センターの西田をサードとピッチャーの間の付近に就かせるシフトを敷いたのだ。いわゆる"内野5人シフト"である。

 このシフトは県大会の時にも一度やっており、成功している。柳川商の狙いは、単にスクイズ警戒だけでなく、外野に打とうとするとより力が入ってしまうという人間の心理をついたものだ。また、当時は木製バットだったからこそできたシフトと言える。

 作新はこの奇策にまんまとハマり、得点を奪えない。12回、14回にもサヨナラの好機をつくるも、この変則シフトのおかげでことごとくチャンスを潰している。とくに14回は、一死から江川が三塁打を放ち、4番の亀岡(旧姓・小倉)偉民を迎えるも、強振した打球は西田のグラブに収まり、一塁に転送されアウト。記録上はセンターゴロという珍しいケースとなった。

【延長15回、薄氷の勝利】

 スタミナに不安を残していた江川だったが、後半はカーブを主体に柳川商打線を封じ込める。そして延長15回裏、作新は二死一、二塁から1番の和田幸一がセンター前に弾き返し、二塁ランナーの野中重美がホームへ駆け込む。センターからの好返球でタイミング的にはアウトだったが、これをキャッチャーが落球。作新がサヨナラで勝利し、2回戦へと駒を進めた。

 サヨナラ打を放った和田は、こうコメントしている。

「いつも、ほかの(江川以外の)ヤツは何をやっているんだ、と言われるんです。県大会の時から野次られていました。僕らも一生懸命やっているんですけど、ダメなんです」

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る