和田豊が振り返る92年のタイガース快進撃 「亀山努という計算外の選手が出てきて、チームに新しい風を吹き込んだ」 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Sankei Visual

 というのは、同年の阪神の開幕カードは東京遠征で対ヤクルト2連戦、対巨人3連戦。中村監督はこの5試合に向け、「最低でも2勝して大阪へ帰ろう」と選手に言い聞かせていた。それに対して和田は反抗し、神宮球場近くの焼肉店における決起集会で「勝ち越して大阪に帰ろう!」と声を張り上げた。その場にいた八木が「まさに選手会長、リーダーらしかった」と証言している。

「選手会長だから言ったわけじゃないです。監督が謙虚に『2つでいい』と言ったら、それは『3つ勝つ』って言いますわね。なんなら『全部勝つ』って。それぐらい開幕ダッシュは重要だし、低迷しているだけに、よりスタートが大事になる。出足でつまずくと、チームに本当の力がないからズルズル......っていうシーズンが続いていましたので。開幕にかける思いは強かったですよ」

 結果はヤクルト戦に1勝1敗、巨人戦に2勝1敗の3勝2敗。5試合とも先発投手が7回以上を投げ、新守護神候補の田村勤が2セーブを挙げた。オープン戦から好調だった投手陣の充実ぶりが目立った一方、野手では亀山が躍動した。前年まで2年連続でウエスタン・リーグ首位打者に輝き、90年には盗塁王も獲得した俊足の巧打者タイプ。代走からチャンスをつかんだ。

【チームを変えた亀山努の出現】

 開幕第2戦、亀山は9回に代走で出て本塁憤死も、延長10回にダメ押し2点タイムリーを放ち、チームのシーズン初勝利に貢献。巨人との第1戦も代走で出ると、2戦目は2番・センターで先発出場し、3回、相手先発の斎藤雅樹から二塁内野安打。一塁にヘッドスライディングして間一髪セーフになった。このプレーに衝撃を受け、当時、和田はこう発言している。

「監督もそう思っているでしょうけど、亀山という"計算外"の選手がガーンと出てきて、そのことによってほかの同年代のヤツも『アイツができるんだったらオレも......』という気持ちがすごくあったと思うんです。今までウチにはファーストに滑り込む選手なんていなかった。しかも頭から......。すごく思いきった走塁、そして守備もそう。今までのウチにはいないタイプだった。アイツがチームに新しい風を吹き込んだんです」

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