阪神・岡田彰布監督はなぜ「8番ショート・木浪聖也」にこだわったのか 名コーチが解説するタイガース打線のツボ (2ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Koike Yoshihiro

 木浪はもともと肩が強く、守備に定評があった選手だ。その一方で打撃にこれといった個性を打ち出すことができず、今シーズンにしてもショートの守備を最優先に起用されていたはずだ。ところが、打撃でもしぶとさを発揮し、恐怖の8番となっていった。

 聞けば、オフに近藤健介(ソフトバンク)の自主トレに参加し、下半身の使い方を見直したという。基本中の基本だが、地味な練習が安定したスイングを生み出したことは容易に想像がつく。また木浪は、練習量もすごいと聞いたことがある。そうした本人の努力もあって、バッティングが飛躍的に向上したのだろう。

【8番に固定した理由】

 では、木浪は打者としてどのようなタイプなのか。バッティングは、コツコツ当てるというよりはしっかりボールを叩く。得意なコースは真ん中よりもやや外角寄りで、逆に内角低めの膝もとあたりを苦手としている。これは木浪に限らず、多くの左打者が苦手にしているコースだ。

 昨年までの木浪は左右広角に打ち分けていたが、今季は右中間への強い打球が印象的だ。そして苦手にしていた膝もとの球もうまくバットを出せるようになり、少々詰まったとしても一、二塁間に転がしてヒットを稼げるようになった。

 そのせいか、犠打も20個(リーグトップは21個)あるものの、バントをしていた印象は薄い。実際、つなぎ役としてだけでなく、チャンスメーカーにもポイントゲッターにもなっていた。それが今シーズンの木浪だ。

 これだけのバッティングを披露すれば、起用法の幅が広がる。たとえば、シェルドン・ノイジーが不振で3番打者に困っていた時期があった。そのような状況で、監督によっては近本を3番にして、木浪、中野を1、2番に据えることも考えられたはずだ。

 ところが岡田監督は違った。どれだけ木浪が好調でも、8番から動かさなかった。おそらく岡田監督は「打順を変えたら、打線が切れる」と考えたのではないか。とくにセ・リーグはDH制がなく、9番に投手が入ることがほとんどだ。打撃の弱い打者が並ぶだけで、相手にしてみればプレッシャーが少なく、味方からすれば作戦の選択肢が減る。

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