投手・大谷翔平が求めるべきものは「安定感」か「躍動感」か? (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 田中正史●写真 photo by Tanaka Masashi

 その理由として考えられるのは、大谷の中に、フォームのブレをなくそうという意識が強すぎたのではないか、ということだ。大谷は昨秋、こんな話をしていた。

「まだ一球ごとにバラつきがあって、フォームが安定しない。だからまずフォームをしっかり固めることかなと思います。今は一球ごとにリズムも違いますし、出ている“ライン”も違う。同じ“ライン”を出せるようにフォームを安定させないと……そのためには、立ったときの感じが大事です。いい感じで立てれば行きたい方向へ行けそうな感じになるので、しっかり右足で立って、バランスよく左足を上げられるよう、トレーニングしなきゃと思います」

 大谷の言う“ライン”とは、投げたボールの軌道のことではなく、体重移動によって描かれる己の体の動線のことだ。たとえば体軸を点で表現するとして、ピッチャーが右足一本で立って、左足に体重を移し替えて、最後に左足一本で立つまでの間、体軸の点はプレートからホームに向かって地面とほぼ平行に移動し、その軌跡によって一本の線が描かれる。その線のことを大谷は“ライン”と表現していた。筋力とバランス感覚によって体の動線を制御し、思い描く“ライン”に 乗せた状態でボールをリリースすることができれば、コントロールは自然と安定する。大谷に限らず、同じ“ライン”を出し続けられるだけの機械の如き再現性を身につけることは、すべてのピッチャーの永遠の課題でもある。

 そのためにピッチャーが考えるのは、いかにフォームからムダを省いてシンプルにするか、ということ。大谷も、だからランナーがいない場面でもセットポジションから投げているのだろう。しかしシンプルにしようとすれば、その分、躍動感は失われる。

 しかも、大谷は“静から動”の動きがあまり得意ではない。

 動物的な“動から動”の動きが得意なタイプは、“静から動”を作ろうとすると、意識しすぎて動きが硬くなってしまうのだ。栗山監督の「もともと翔平は自分から動きを作るのがうまくない、反応する方がうまいんだよ」という言葉は、大谷の動きの特徴をよく言い表している。動くボールに反応して動きを作る“動から動”が得意なのがバッター、止まった状態からボールを動かす“静から動”の動きが得意でなければならないのがピッチャーならば、大谷の動きは野手のそれに近い。だからこそ、二刀流のうち、野手としては即戦力、ピッチャーとして大成させるのには時間がかかると、栗山監督は言い続けていたのである。

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