「人はなぜ泳ぐのか」リオ五輪金メダリスト・萩野公介の今 大学院で泳ぐことの意味を模索する日々 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

――インタビューしてみていかがでしたか?

「選手はどうしても競技に夢中になると、自分をどこかに置いてしまうんです。彼の場合は優しすぎて、本当を言えば勝負師には向いていない性格で、でも試合になると勝つためにその優しい性格を取っ払わないといけない。だから試合になると本来自分が持っている性質と、勝つために求められる性質が乖離していくんです。それってものすごく苦しいことで、僕もけっこう似たところがあったんですよね。リオまでは『勝つ、勝つ、勝つ』と自分に言い聞かせて数年間できたけど、それが一生続けられるかと言われたら続かないなと。だからリオから引退するまでは『人ってなんで泳ぐんだろう』と考えたんです。そのあたりはやっぱり、器用な性格ではないんですね(笑)」

――競技と離れたスポーツの本質を、これからどういう形で学問として追求していこうと考えていますか。

「どこまでできるかわかりませんけど、東洋大に戻って恩返しをしたいという気持ちはあります。競技スポーツというのは感情をむき出しにするし、本当に人間くさいものなのではないかなと思うけど、それがなくても人間は生活していけるんですよね。そんななかでのスポーツの意味というのを、僕は見つけようとする道を歩んでいきたいというのが正確な答えかなと思います。

 ただ、引退したからこそ思うのは、スポーツって何歳からでも、どのレベルからでもできるということです。今までトップ競技しかやってこなかったから、トップこそスポーツだと思っている部分があったけど、ウォーキングも軽いジョギングもスポーツだし、散歩しているのもスポーツなんです。だからスポーツはいろんな種類があると思うし、人それぞれのスポーツがあると思います。

 水泳の普及ということだけではなくて、人間にとってのスポーツというものを探求していきたいし、その一助を担えればいいかなと考えています」

Profile
萩野公介(はぎの こうすけ)
1994年8月15日生まれ。栃木県出身。
幼少期から水泳を始め、作新学院高校在学時の2010年に日本代表に選出された。2012年のロンドン五輪には北島康介以来となる高校生で初出場を果たし、400m個人メドレーでは銅メダルを獲得する偉業を達成した。2015年には自転車事故で右ひじ骨折を経験したが、2016年のリオ五輪では400m個人メドレーで金メダル、200個人メドレーで銀メダル、800mフリーリレーで銅メダルを獲得。その後は不調に悩まされたが、2021年の東京五輪に出場し200m個メで6位入賞を果たし、大会後に引退を発表。引退後は日本体育大学大学院でスポーツ人類学を学んでいる。

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る