中央大学の大物ルーキー・岡田開成は、通学・競技と新たな刺激を受け、箱根駅伝のみならずトラックで世界を目指す (2ページ目)

  • 生島 淳●取材・文 text by Ikushima Jun

【朝4時半起床に始発待ち20分】

 高校を卒業し、この春に中大に入学。洛南高時代は自宅から通学していたこともあり、初めての合宿所生活には緊張もあった。

「4年生の山平(怜生)さんと同じ部屋で、迷惑をかけてるんじゃないかと、ドキドキしていました。入寮してから2カ月が経って、だいぶ生活には慣れてきた感じです」

 岡田が学ぶのは中大の看板である法学部。法学部は昨年度から八王子キャンパスから文京区にある茗荷谷キャンパスへと移転した。通学には1時間半ほどかかる。岡田の生活パターンを聞いて、驚いた。

「法学部の学生は、平日のポイント練習(実戦を想定したペースで行なう内容)は早朝に行なうので、5時に起きて補強トレーニングをしてから、6時に20㎞の距離走が始まったりします。ダウンジョグもあって、それからシャワーを浴び、慌てて朝ごはんを食べてから自転車で駅に向かいます」

 岡田が話してくれたのは、10時50分から始まる2限に合わせたスケジュール。ところが、9時に始まる1限の日は、時間が前倒しになる。

「1限の日が週に一度ありまして、その日は4時半起きです。そこからトレーニングをして、ジョグに行きます」

 シャワー、朝食の後、身支度を整えて自転車で10分ほどのJR中央線の豊田駅に向かう。

「さすがに座っていきたいので、豊田駅始発の電車の列に並びます。7時34分発の電車に乗るためには、少なくとも20分前には並ばないと座れないんです」

 東京の洗礼である。

 岡田は目を閉じて電車に揺られ、乗り過ごさないように携帯電話のアラームをかけ、キャンパスへと向かう。

 適応が求められるのは通学だけではない。中大は補強トレーニングを重視しており、これまでも新入生はそのメソッドに慣れるのに苦労してきた。岡田も高校時代とは違ったトレーニングを自分のモノにしようと葛藤を続けている。

「もちろん、高校時代もトレーニングに取り組んできましたが、ぜんぜん違いますね。中大では腸腰筋へのアプローチを重視していて、自分にとっては新しい取り組みなので、結構たいへんです」

 新しい刺激はそれだけにとどまらない。強く、速い先輩たちに囲まれ、新たなモチベーションが芽生えている。4月29日に行なわれた織田幹雄記念陸上(広島)では、グランプリの5000mで3年生の吉居駿恭が13分24秒06で優勝した。

「吉居さんは、高校時代の佐藤圭汰さんと同じように自分に刺激を与えてくれる先輩です。練習以外でも低酸素室に入ったり、強くなることに貪欲だと感じます。自分も見習っていきたいと思っています」

 5月9日から始まる関東インカレでは、岡田は5000mに出場する。

「自分の持ち味を発揮できるレースにしたいです。もちろん、レース展開を見ながらですが、自分から積極的に動きたいと思っています。予選の2組目で走りますが、同学年で早稲田の山口竣平(佐久長聖高出身)と同組で、山口とは中学時代から競い合っているので、負けたくはないです」

 同学年のライバルでは、山口だけではなく、同じ近畿ブロックで競い合った青山学院大の折田壮太(須磨学園高出身)にも対抗心がある。

「折田には一度も勝ててないんです。『どうしたら勝てるだろう?』とあらゆるレースパターンを試しているんですが、これまでは負けているので、中大で力をつけて勝てるようにしていきたいです」

 今季のトラックシーズンの目標は、10000mで28分ひとケタのタイム。その先はロード仕様へと練習内容も変わっていくが、「岡田は箱根の予選会で必要です」と部内での意見は一致している。

「20km以上の距離にはまだ不安はありますが、トラックシーズンでしっかり力を出し切ったあと、長い距離にも適応していきたいですね」

 じっくり話してみると、1年生だが言葉の端々に「堅実さ」がうかがえる。中央大学というすばらしい環境で、岡田は力を伸ばしていくだろう。

 朝4時半起床、豊田駅始発の電車を待つ時間にも、きっと意味はある。

【Profile】岡田開成(おかだ・かいせい)/2005年8月30日生まれ、大阪府出身。洛南高(京都)―中央大。高校1年から全日本高校駅伝に2年連続出場。高校2年時にインターハイ5000m決勝進出、世界クロスカントリー選手権日本代表(U20男子8km)に選出される。自己ベストは5000m13分48秒44、1万m28分38秒30。

プロフィール

  • 生島 淳

    生島 淳 (いくしま・じゅん)

    スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。最新刊に「箱根駅伝に魅せられて」(角川新書)。その他に「箱根駅伝ナイン・ストーリーズ」(文春文庫)、「エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは信じること」(文藝春秋)など。Xアカウント @meganedo

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