福部真子の「七転び八起き」女子100mハードル競技人生「大失敗をパリ五輪につなげたい」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【世界新記録を体感しさらに貪欲に】

2022年の世界選手権での日本新記録も叩き出した photo by Nakamura Hiroyuki2022年の世界選手権での日本新記録も叩き出した photo by Nakamura Hiroyukiこの記事に関連する写真を見る

 その成長がその後の12秒台連発につながった。だが2022年オレゴン世界選手権の準決勝で出した日本記録(12秒82)は、「エッ?」という思いもあった。そのレースで1位になったトビ・アムサン(ナイジェリア)は12秒12の世界新で、福部は最下位の8位だった。

「ハードルでは視界の片隅で(先行する選手の)背中が見えないことはないのに、3レーン隣の1位の選手(アムサン)の背中が見えなかったのでゴールした瞬間は13秒かかったと思ったくらいです。記録を確認した時は、ずっと日本記録を出したいと思っていたからすごくうれしかったですね。ただ一夜明けて、帰国する飛行機の中で『なんであんなに離されたんだろう。でも私は日本記録だよね。0秒7離されたら(背中は)見えないのか』と、いろいろ考えていました」

 福部は「日本記録が出たら絶対に競技をやめるだろうと思っていた」と苦笑しながら振り返る。だが、その走りからは、「出し切った感」を得ることができなかった。「だから逆にもっとシビアにやったら、もしかしたら(アムサンの)背中が見えるのかなと感じて、『もしかしたら?』がまた出てきたんです」と笑う。

 帰国後に出した12秒73も、彼女の中では「少し失敗のレース」だった。

「そこで『あっ、(12秒)6台が見える』となり、欲が出て『やっぱり5台を出したいな』と思いました。12秒5を切るのは世界大会の決勝進出ラインだから、それはパリ五輪で(目指す目標)と思っていたけど、あまりにも早く見えてきたなと感じました。でも実際に"世界記録"と走ると背中も見えない。『もっと変わらなきゃいけない』という思いも強くなって。『じゃあハードリング変えなきゃいけないのかな。スプリントもつけなきゃいけない。でも肉体的な土台も必要になってくる』と、さらに欲張りになり、迷子になってしまった」

 筋肉の量が増えれば、一歩一歩の出力が変わり、タイミングも変わる。体は必然的に変わっているのに、目で覚えていたハードルとの距離感で動こうとしている。『アレッ、どうやって走っていたんだろう』と前に戻ろうと思っても、前の体じゃないから戻れない。そのなかで「本来の自分のハードリングや良さを見失ってしまった」という。

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