箱根駅伝予選会の転倒も糧に衝撃の走り 東京国際大のリチャード・エティーリ、ヴィンセントを上回る記録の背景

  • 和田悟志●取材・写真・文 text & photo by Wada Satoshi

2月にハーフマラソン日本学生記録を更新した時のエティーリ2月にハーフマラソン日本学生記録を更新した時のエティーリこの記事に関連する写真を見る

 学生駅伝の舞台に立たずとも日本学生長距離の歴史の頂点に。東京国際大のリチャード・エティーリは大学1年目にして4種目で学生記録保持者となり、その大器ぶりをいかんなく発揮し続けている。箱根駅伝予選会での挫折をも乗り越え、進み続ける大器の前途は無限大の可能性を秘めている。

【入学直後から衝撃の走り】

 今、大学長距離界で"史上最強の留学生"の称号をほしいままにしている選手がいる。東京国際大の1年生、リチャード・エティーリだ。

 東京国際大の留学生といえば、箱根駅伝で3区、2区、4区の3区間の区間記録を打ち立てたイェゴン・ヴィンセント(現・Honda)が在学中に強烈なインパクトを残したが、エティーリは、学生駅伝の出場こそまだないものの、1年目から先輩のヴィンセントを上回る活躍を見せている。

 入学したばかりの昨年4月22日のNITTAIDAI Challenge Games1万mで、ワンジク・チャールズ・カマウ(武蔵野学院大)が持っていた従来の日本学生記録(27分18秒89)を約12秒も上回る、27分06秒88の新記録を打ち立てると、5月4日のゴールデンゲームズinのべおかでは、ヴィンセントが持っていた5000mの記録を15秒も更新し、13分00秒17の日本学生新記録を樹立した。

 その衝撃はトラックだけにとどまらない。

 今年2月4日の香川丸亀国際ハーフマラソンでは、2007年にメクボ・モグス(山梨学院大)がマークした従来の日本学生記録(59分48秒)を17年ぶりに更新する59分32秒の新記録を打ち立てた。しかも、走り終えてなお、まだまだ余裕そうな表情を覗かせていた。

 丸亀ハーフでは20kmの通過タイム(56分36秒)も公認となるため、5000m、1万m、20km、ハーフマラソンの4種目で日本学生記録保持者となった。

 まだ1年生ゆえに、あと3年間でどこまで記録を伸ばすのか、レースの度に注目を集めることになりそうだ。

 その強さの秘訣を東京国際大の中村勇太ヘッドコーチに聞いた。

【来日への強い意志がなければ強くなれない】

 ヴィンセントが最終学年を迎える2022年の2月に中村コーチはケニアに渡り、現地のクラブチームを回り、日本で活躍できそうな選手を探した。

「向こうのコーチの推薦を受けたり、トライアルをやって結果が良かったりした選手を何人かピックアップして日本に来てもらいました」

 こう話すように、有望な選手を日本に招いてセレクションを行なった。つまり、リチャードやもうひとりの留学生、アモス・ベット(1年)は、大学に入学する前に何回かに分けて日本を訪れており、夏の蒸し暑さや冬の寒さを体験していたのだ。これが大学1年目から活躍できた理由のひとつだろう。もっとも入学する前の各種記録会で、彼らはすでに好記録を連発していたが......。

「我々がチームとして彼らの能力を見定めるだけでなくて、彼らもまた、ここで強くなれるのか、ここでやっていけるのかを見定める期間でした。そういった安心感を持った上で入学してもらいたかった。彼らは"俺はここで頑張るんだ"という覚悟を持って入学してくれました」

 日本に来るにあたっては、何度も面談を持った。その上で自らの強い意志を持って、入学を決めている。特にベットは「絶対に日本に行きたい。これはマイドリームなんだ」と強く訴えかけてきたという。

「確かに彼らをケニアから連れてきたのは事実だし、彼らの活躍でチームの成績が上がっているのも間違いではありません。でも、彼らは日本の大学じゃなくても、活躍、活動の場はいくらでもあったはずです。そのなかで、試しに日本に来てみて、ここで強くなれると思ったから、東京国際大を選んでくれた。それは誇りに思っています」

 環境が変わった時に、持ちタイムが速い選手が必ずしも活躍できるとは限らない。彼らの活躍は、強い意志の上に成り立っている。その事実を、中村コーチは強調する。

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