青学大の「結果を残せていない」4年生たちが箱根で好成績を残せたワケ「過去の先輩方にはなかった」ことも実施→横の繋がりを強めた (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun

 後輩たちに慕われる佐藤たち4年生は、どういう世代なのだろうか。

「僕らはコロナ世代といいますか、外出とかあまりできない時期、寮でゲームをしたりして、一緒に過ごす時間が多かったんです。そのおかげで、お互いを知ることができて仲良くなったのはあります。また、4年間で、駅伝では思うような結果を残せていないんですけど、ひとりひとりが競技に対して高い意識で取り組んでいますし、本当に仲が良い(笑)。帰省期間に学年みんなでキャンプ場のコテージみたいなところに行ったんですけど、4年生みんなでどこかに行くのって過去の先輩方にはなかったと思います。それくらい横の繋がり強いんです」

 山内も「このチームは縦の関係もいいんですけど、やっぱり横のつながり強い。4年生の絆といいますか、それは過去のどの4年生にも負けていないと思います」と語る。

 その4年生が12月、チーム内に大流行した風邪で体調を崩す選手たちを献身的にサポートした。また、箱根の登録メンバーから外れた選手は、年末に箱根0区と呼ばれ部内TT(タイムトライアル)を走るのが恒例行事になっている。箱根に出場するメンバーの声援を受けて志貴や鈴木らが先頭を引っ張り、佐々木塁(4年)は3位に入った。その姿を見た山内は「他の4年生の分もやらないといけない」と気持ちが奮い立ったという。佐藤も「見たことがない必死の表情で走り切って、本当に感動しましたし、それで4年生の結束力が一段と固くなった」という。

「僕の記憶ですが、キャプテン、副キャプテン、寮長の3人が箱根を走れないというのは、初めてだと思うんです。僕らの学年は陸上では結果を残せていないですけど、チームの大事な役職に就くのは、普通にひとりの人としてみんなの信頼が厚かったからだと思うんです。そういうメンバーが支えてくれたから僕らは走れたと思うし、優勝することができた。僕は、この優勝は4年生を含めてチーム全体の結束力の勝利だと思っています」

 佐藤は、嬉しそうにそう語った。

 4年生にはレース後、うれしいニュースが届いた。コロナ後、中止になっていた優勝記念のハワイ卒業旅行が原監督からプレゼントされることになった。

「とりあえず、4年生だけで早く打ち上げしたいですね(笑)。ハワイ旅行もプレゼントされるので、楽しみです。本当に最後に優勝できたし、これで胸を張って卒業できます」

 近藤や岸本、横田俊吾ら強い4年生がいた彼らでさえ勝ち取れなかった箱根を佐藤たちが大学史上最強ともいわれた駒澤大を破って優勝することができた。それは、夏以降に個々の力が上がってきたのも大きいが、箱根に向けて思い切り戦える環境作りを4年生たちが軸となって構築してきたからでもある。4年生はチームのために、勝利のために献身的な姿勢でサポートしてきた。

 佐藤たち4年生は、「最強の4年生」ではなかったが、「最高の4年生」だった。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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