箱根駅伝全国化について神野大地の思いは「選手ファーストで」 クロカンで鍛える現在地 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文・写真 text & photo by Sato Shun

【キツいクロカンで一皮むけた】

 現地での練習はこんな感じだ。

 最初に林道コースを34キロ走り、翌週にはクロカンコース22キロを走り、30キロまで伸ばしていく。クロカンコースは、ほぼ上りで足元が悪いため、神野曰く「クロカン30キロはロードの50キロぐらいの負荷」になるという。

 この練習の意図は、どこにあるのか。

「本格的なマラソン練習をする前に、しっかりと下地を作るということです。MGC2カ月前ぐらいになるとスピードを上げたなかで距離を踏んでいく練習が増えていくんですが、レベルを上げた練習をしていく際、しっかりとした基礎を作り、強い体が出来ていないとケガするリスクがあるので。また、クロカンは心肺機能を高めることもできる。藤原さんは現役時代、クロカンで走れていたらレースでももっと走れたと言っていた。僕はクロカンは意外と質の高いポイント練習になっていると思っています。MGCに向けて今の時期が一番重要だと思っていますので、じっくりやっています」

 藤原も「この時期の走り込みが今後を左右する」と言う。

「体作りを家造りに例えると、今はいろんな材料を集めて、基礎を作っているところです。そうして、さぁどうやってマラソンを組み立てていこうかというのが今の状況ですね」

 淡々とクロカンや林道を走るだけではなかなか成果が見えづらい部分があり、練習のモチベーションを上げていくのも難しいように感じる。だが、神野は富士見に3年間通っており、タイムを測定しているので、前回との比較で進歩が見えるようになっている。

「前は22キロで死にそうになったけど、25キロ走れるようになってタイムも良くなり、距離も確実に増えている。毎日、クロカンを走ることで足の筋肉の見え方も変わってきますから成長をすごく感じられます」

 藤原も神野の走りに成長と手応えを感じている。

「昨年の神野は、もうちょっと速く走れるはずなのに、『なんか追い込んでいないなぁ。このコースが苦手なのかな、なんなんだろう』って思っていたんです。でも、今は結構キツいクロカンコースを28キロ走って、1キロ340秒から45秒のペース。神野はサラっと走ったんですけど、これって結構レベルが高くて、そういうところに進歩が見えたというか、一皮むけた感がありました。今後、涼しくなってから調子が良くなるのは今の練習から見ていると確約できる」

 富士見高原は、本当に静かな場所だ。

 夜は静かで、「一人でいると怖いくらい」と神野は言う。一人でいると、考える時間が増え、不安なこと、余計なことを考えてしまいがちだ。MGCに参戦する選手は、北海道でホクレンの大会に出たり、海外のレースに出ていたりする。神野は、重視していた仙台ハーフで課題を確認することができなかった。

「不安ですか? 今の段階ではないですね。僕は今、地味な走り込みの練習をしていますが、それを乗り越えないとMGCで勝ち目はないし、勝つイメージが湧かないんです。レースが近づいてくれば、そういうことも感じるようになると思うんですけど、それを跳ね除けるために今、練習をしていますし、それを乗り越えた選手がMGCで勝つと思うので、それが自分だと思ってやっています」

 神野は、強い覚悟を秘めた表情で、そう言った。

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