為末大が語る「体罰問題」。選手と指導者の正しい関係とは? (5ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko photo by Yamamoto Raita

――自立をしたアスリートとして指導者の現状を見た場合、今後どうすれば体罰を駆逐できると考えますか。

「対話というか、問答を繰り返していくしかないと思うんです。体罰って身体に関することですけど、さきほども話に出た、上から落ちてくる『これが正しいから今後みんなこれで行くぞ』という指導が行なわれるヒエラルキーにも、体罰的なものを僕は感じるんです。

 要は、今のスポーツ界にあるいろんな問題の根源は、『問答無用の文化』だと思うんです。だからどうやってスポーツ界の文化に問答というのを作っていくのかが重要ではないかと思っています。

 なぜこれをしなきゃいけないんだ、この場合どうすれば良いんだという問答が始まっていくこと。これからの時代のスポーツはそうなって欲しいと思います。問う選手を作るということも大事ですし、答える指導者、もっと言うと、問う指導者も大事だと思うんですね。

 オシムさんの本を読んで思ったことは、指導とは結局、『自分で考える人を育てる』ことだと思うんです。

 今、産業構造が変わってきて、人間がしてきた単純作業がコンピュータに取って替わられそうだという空気と、体罰があって、命令されて正確にこなすという時代の空気とか、いろんなものがマッチしている気がしています。

 ここでスポーツが社会の後追いをするのではなく、一歩前にいるというくらいの心意気でいて欲しいと思うんですよね」
(続く)

  
プロフィール
 profile
為末大 Tamesue Dai
1978年生まれ。世界陸上400mハードルにおいて、トラック種目で日本人初となるメダルを2回獲得(2001年エドモントン大会、2005年ヘルシンキ大会)。オリンピックには2000年シドニー、2004年アテネ、2008年北京と3大会連続で出場した。現役引退後は、スポーツ、陸上の活性化やビジネスとしての市場創出を含め活動の幅を広げている。http://tamesue.jp/


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