【陸上】日本短距離界に大きな刺激。桐生祥秀vs山縣亮太が生み出す力。

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 岸本勉●撮影 photo by Kishimoto Tsutomu

レース後の握手で笑顔を見せた桐生祥秀(左)と山縣亮太(右)レース後の握手で笑顔を見せた桐生祥秀(左)と山縣亮太(右) 1万7000人の観客が注目した、6月8日の日本選手権男子100m決勝。4月の織田記念で、10秒01を出して9秒台の夢を一気に現実にした17歳の桐生祥秀(洛南高)の、初出場、初優勝の野望を阻んだのは、昨年のロンドン五輪の快走で日本のエースに駆け上がっていた20歳の山縣亮太(慶大)だった。

 前日の予選で、山縣は心に余裕を持つことができた。第1組で走った彼は、スムーズにスタートからしっかりスピードに乗ると、大混戦の2位争いを尻目に大差をつけて10秒14。8月の世界選手権参加A標準記録の10秒15を突破し「これで決勝へ向けて気持も楽になった」と笑みを見せた。

 一方、桐生には少し緊張の色があった。日本陸連の伊東浩司短距離部長は「10秒01を出しているといっても、レース前の仕種(しぐさ)を見れば、まだ高校生だなと感じた」と笑う。高校の大会では次々とレースが行なわれ、100mも1日で予選、準決勝、決勝を走る忙しさだ。しかし、今回は1日1本だけのレース。競技場へ入ったあとも、前のレースが終わってから自分のレースまで時間の余裕があり、戸惑った表情も見せていたという。

 そんな緊張もあってか、第2組の桐生はスタートから加速が若干鈍り、隣のレーンを走る塚原直貴(富士通)に先行される展開になった。しかし、それは彼自身が予想していたことだった。「織田記念でタイムは出ていたが、この大会は甘いものではないと思っていたので。他の選手に先行されることも考えて、高校ではチームメイトに先に行ってもらい、焦らずに100mのうちで抜けばいいという練習をしていた」と、自分のレーンだけを見て走り、先行する塚原などをラスト20mで逆転して10秒28でゴールした。

 予想通りふたりの予選1位通過だが、桐生の方が若干不利にみえた。1週間前にはインターハイ京都予選でリレーを含めて9レース走ったばかり。「その後は休みを入れて疲労を抜く感じできたが、疲労は残っている」と言う状態。選手権の100mはレースまでの心理状態も勝負のうちに入るもの。その点を考えれば、大会前からきっちり集中して臨んでいる山縣の方に分はあると思えた。

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