【陸上】100m日本記録保持者・伊東浩司が考える「9秒台の選手の育て方」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi photo by Oriyama Toshimi

新たに短距離部長に就任した伊東浩司。現在も100mの日本記録保持者だ新たに短距離部長に就任した伊東浩司。現在も100mの日本記録保持者だ 現在の100mの日本記録は10秒00。これは、1998年12月、バンコクで行なわれたアジア大会男子100m準決勝で伊東浩司が記録して以来、更新されていない。その日本記録保持者である伊東が、今季から日本陸上競技連盟の男子短距離部長に就任。2月12日からの沖縄合宿で選手たちの練習をジックリと見守った。

「4継(4×100mリレー)に関しては成功例が続いているので、基本的なやり方を受け継いでいくが、これまでのように指導者ひとりですべてをやるのではなく、前体制でも代表コーチだった土江寛裕や、新任の小坂田淳、小島茂之にそれぞれ、4継、マイルリレーと専任を持ってもらい、担当選手も分担制にします。私は最後のひと声ですね。『もう一本やれ』とか」と言って伊東は笑う。

「日本の指導者の場合、選手を他人に預ける勇気がないというか、ウエイトトレーニングなどの指導者との分業ができていない。この分野は口を挟まないけど、自分の分野は思い切りやる、としないとダメだと思いますね」

 甲南大学陸上部で女子選手を指導していた伊東の目から見て「こうしたらいいのではないか」と思う部分も多く、世界選手権から小学生まで、「あらゆるレベルの陸上競技の解説者としてスタンドから観てきた経験も役立つのではないか」と考えている。

「現役引退後、すぐにコーチになった者は、どうしても現場でひとりの選手だけに注目してしまいがち。しかし、レースになって外国人選手とその日本人選手の走りを見比べた場合、いいところだけでなく、欠点も見えてくるものです。たとえば、200mで選手本人が『前半を抑えた』と言っていても、国際大会で外国人選手と走ったときは、遅れているとしか見えない。そういう選手と指導者の認識のズレも、話し合いながら詰めていかなければいけない。

 それに、今の選手たちは、世界のトップとの距離を実際より近く感じているように見えます。だけど、トップレベルに近づくためには、やらなければいけないこと、経験しなくてはいけないことがもっとあるのでは、と思う選手がたくさんいます」

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