国枝慎吾の跡を継ぐ思いは「もちろんある」。16歳・小田凱人がグランドスラム決勝の舞台で抱いた新たな決意 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

【出発日に引退を告げられた】

「いつかやられる日が来るだろうな。もう少しだけ勝たせてくれよ!」

 試合後のコートで、国枝がマイクを手に小田に言う。

「国枝選手、ありがとうございました」

 そう応じる小田は、「もちろん今日の試合にも感謝していますし、本当に......」と続けると、こみ上げる感情に胸をふさがれ、大きく深呼吸をした。

「僕がテニスを始めた理由も、国枝選手のロンドンパラリンピック決勝を(動画で)見たから。こうして同じコートで戦えたことを、本当にうれしく思っています」

 2023年1月──。小田が国枝から直接引退を告げられたのは、メルボルンへと出発する、まさにその日だったという。

「パリ(2024年パリパラリンピック)まで続けてほしかった。それも、僕のひとつのモチベーションだったので」

 受けた衝撃の大きさを、小田はそのような言い回しで表現した。

 国枝がいない全豪オープンのロッカールームは、誰もがいつもと違う雰囲気を感じ、各々が"ポスト国枝"の情熱を胸に灯した。

 世界1位のアルフィー・ヒューエットも、そのひとりだ。

 昨年7月のウインブルドンでは、地元で悲願の優勝に肉薄しながら、国枝に逆転負けを喫した。
全豪オープンでは過去2度決勝に進みながら、いずれも僅差で逃している。今度こそは......の思いは、彼もまた、いつにもまして強かっただろう。

 決勝戦でのヒューエットは、立ち上がりは若い勢いに押されるも、コート後方からも重いスピンをかけたショットで小田を左右に振り、戦略やショットの幅と経験で押し返す。

 終わってみれば、ヒューエットが6-3、6-1で完勝。サービスエースを決めた瞬間、ラケットを落とし、両手で顔を覆い、肩を震わせる姿が、若き王者の背負ってきた重圧を物語る。

「三度目の正直。特にウインブルドンの敗戦に、僕は取りつかれていた」

 勝利後の会見で、彼はそうとまで言った。国枝が残したその呪縛をヒューエットが解いたのは、奇しくも「国枝の後継者」と目される16歳に勝利した時だった。

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