国枝慎吾の跡を継ぐ思いは「もちろんある」。16歳・小田凱人がグランドスラム決勝の舞台で抱いた新たな決意 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

【国枝の姿に救われた9年前】

 昨年末、小田はツアー年間上位8選手が集う「NEC車いすテニスマスターズ」を史上最年少で制した。

 彼が駆け抜けたその後には、轍(わだち)のように"史上最年少"の記録が刻まれていく。

 実際に小田自身も「最年少」や「最速」へのこだわりを隠さない。ただ彼は「単に記録がほしいとか、数字的に魅力があるからというわけではない」と言った。

「僕がテニスを始めた時に、7〜8名の強い選手たちがいた。その憧れた選手たちと、どうしても同じ舞台で戦いたという思いが、ものすごく強かったんです。

 すでに30歳を超えた選手も多かったなかで、彼らと対戦するには早くランキングを上げて、最年少でグランドスラムに出場して......というのが必要だった。必然的に、最年少だったり、より早くトップにならないといけないと思っていました」

 彼らのいる場所にどうしても行きたい。少しでも早く、彼らが去ってしまう前に......。

 そんな渇望に駆り立てれ、小田は車いすを漕ぐ手に力を込め、練習コートで何千、何万とボールを打った。

 とりわけ彼が対戦を望んだのが、国枝慎吾。

 7年前の9歳の頃、骨肉腫の手術を受けて病院のベッドに寝ていた時、動画で見た国枝の姿が彼に希望を与えたからだ。

 切望した国枝との頂上決戦が実現したのが、昨年10月。有明コロシアムで行なわれた「車いすテニス楽天オープン」の決勝戦だ。

 ATPツアーの楽天オープンと同時開催ということもあり、多くのファンが観戦するなかでの決戦。その大舞台にふさわしく、試合は激的な接戦となる。ファイナルセットでは国枝がセットカウント5-1とリードし、セットポイントも掴む。

 だが、このあとのない状況から、小田は驚異の追い上げを見せた。一打一打に長年の想いを込めるように、気迫の叫び声をあげてボールを叩く。コロシアムにチェアが駆ける金属音と両選手の息遣いが響くなか、タイブレークの末に勝利を掴み取ったのは、国枝だ。

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