女子ボートレーサー内山七海、目標のA1級へ日々成長中「1号艇のプレッシャーに負けそうになることもある」 (3ページ目)

  • キンマサタカ●取材・文 text by Kin Masataka

【初の優勝が見えた日】

 7月にはレーサー人生で初めて優勝戦に手が届きかけた。

「早い段階で、エンジンの調子がよくなってきたので、これはいけるかもしれないと思ったんですけどね」

 ボートレースは数日間にわたってレースが開催され、最終日に成績優秀者による優勝戦が行なわれる。優勝戦前日に行なわれるのが、準優勝戦。ここで2位までに入れば、最終日の優勝戦に出られる。レース期間もモーターやプロペラの調整を続けるから、後半に向けて調子が上向きになることもある。

 準優勝戦の内山は4コースからの勝負だった。ファンにとっては数あるレースのひとつかもしれないが、内山にとっては人生を変える瞬間になるかもしれない大事なレースだ。

 4コースで引いて構えた内山と、他艇のスタートはほぼ同時。スタートで先行することは厳しい。そうなると、高速で旋回しながら、先行する船のインから差しを狙うしかない。

 1号艇の左、最内はどうしても間に合わない。すぐに2号艇と3号艇の間を狙おうとしたが、一瞬判断が遅れた。同じようにまくり差しを狙った3号艇にはばまれ、舳先を差し込むことは叶わなかった。前の2艇にブロックされる形で外に流された内山はそのまま5着でフィニッシュ。

「みんなが上手だったんです。もう少し早く判断をする必要があったけど、できませんでした」

 初めての優勝決定戦出場のチャンスを逃した時はさすがに落ち込んだ。

 優勝戦は賞金額が跳ね上がり、ボートレース最高峰のレース「グランプリ」の優勝戦で1着となれば1億1000万円もの賞金が手に入る。

 これは決して宝くじのような夢物語ではなく、内山が進む道の先にあるものなのだ。はるか遠くかもしれないが、着実に1歩ずつ近づいている。

 内山には他のレーサーに負けないものがある。それは、諦めの悪さだ、

「7回も試験を受けたなんて才能がないのかもしれないけど、それで元気をもらったと応援してくれる人もいるんです」

 常に応援してくれるファンもいる。内山が走ることで誰かに力を与えることができることをうれしく思う。同時に、もっと上に行くにはどうすればいいかもがき続けている。狙うはもちろん最高位のA1級だ。

 最後にレーサーという仕事の魅力を聞くと、端正な顔に力を込めた。

「自分の手で母を幸せにできることですね。それがボートレーサーを目指したきっかけだから」

【プロフィール】
 
◆内山七海(うちやま・ななみ)

1996年12月12日、福岡県北九州市生まれ。B1級。祖父は元ボートレーサーの橋本忠。ボートレーサー養成所の試験に7回目で合格。福岡支部の127期として2020年11月にボートレース若松でデビューし、2021年12月に初勝利を飾った。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る