人気の女子ボートレーサー北村寧々が語る「運命の出会い」 なぜ命の危険もあるボートの世界に入ったのか (4ページ目)

  • キンマサタカ●取材・文 text by Kin Masataka
  • 栗山秀作●撮影 photo by Kuriyama Shusaku

【レース前のルーティン】

 レース当日は朝から気持ちが昂っている。それはデビュー当初から変わることがない。戦闘スイッチをオンにするのは、発走の10分前。待機室で座ったまま目を閉じて、レース展開を思い浮かべる。

 まずはスタートをしっかりと決めること。「第1ターンマークはこうなったらこうする、こうなったらこうする......」とパターンを頭の中でいくつも描く。だが、予想通りにいくとは限らない。スタートが苦手なはずのレーサーに先行されたり、あるいはフライング持ちの自分がトップスタートだったりと、思い通りにならないこともまたボートだ。

「一番ヒリヒリするのは、やはりターンしてる時ですね。特に2、3着を争ってる時は無我夢中です」

水面を疾走しながら、隣のボートと時にぶつかりながら上位を目指す。モーターの音を内臓で感じながら、旋回がうまく決まった時は、これ以上ない幸せを感じる。船と自分がひとつになれたような錯覚さえ覚える。

だが、時に転覆などの事故に遭うこともある。

「この前のレースで転覆した時は(5月27日 蒲郡12R)ボートが上からゆっくり落ちてきて、船体に体が押しつぶされて、息ができなくて死にそうなりました」

だが、翌日のレースでさらなる成長を見せた。転覆はエンジンが水浸しになるため「調子が落ちる」と言われるが、1コースからいい入りをして見事に1着となった。ボートレースは内枠有利の競技だが、強いレーサーほど内枠のチャンスを逃さない。これまでだったら失敗を引きずっていたかもしれない局面だったが、それを乗り越えることができたのは大きな経験となった。

 デビューからわずか3年。これから先、どんどん厳しい壁にぶつかることだろう。ただ、強いレーサーはそれを乗り越えてきたし、乗り越えなければいけないと北村は感じている。

 今年も多くの後輩たちがデビューした。「デビュー時と比べて自分の成長を感じるか」と問うと、「6着が少なくなった」と明快な答えが返ってきた。3年目を迎えた期待の新星は、ひとつひとつではあるが着実に進歩を遂げている。今後の目標は常に舟券に絡んで、信頼されるレーサーになることだ。そのために一戦一戦を大事にしたい。

「まずはひとつ上のA2級を目指します!」

 彼女の挑戦はまだ始まったばかりだ。

(後編:女子ボートレーサー特有の悩みと人気ゆえのプレッシャー「なあなあでやらない。後悔したくない」>>)

【プロフィール】
北村寧々(きたむら・ねね)

2001年9月28日生まれ、長崎県出身。B1級のボートレーサー。高校を卒業後に養成所に入所し、2021年5月に地元・長崎のボートレース大村でデビュー。 長崎支部で8人目の女性ボートレーサーとしても注目を集めている。師匠はA2の男子ボートレーサー宮本夏樹。

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る