「数字=私の評価にはすごく違和感があった」スピードスケート小平奈緒が振り返る現役時代、好調時の葛藤 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 村上庄吾●撮影 photo by Murakami Shogo

【『数字イコール私の評価』みたいな感覚】

 平昌五輪前からは500mの連勝記録が注目され、19年世界距離別選手権で敗れるまで、国際大会28連勝、国内外で16年9月から37連勝を記録した。だが19年から股関節に違和感が出て苦しい時期も続いた。北京五輪シーズンは、そこからようやく立て直してきたところだった。

現役時代の振り返りから引退後の現在についても語ってくれた現役時代の振り返りから引退後の現在についても語ってくれた「股関節を傷めるまでは連勝が続いていたので、数字に関して問われることが多かったのですが、すごく違和感がありました。『数字イコール私の評価』みたいな感覚で、連勝が途切れると、それがその人の価値のように突きつけられる。『何か違うな』と思いました。その時に考えたのが、ラストレースの時の場内インタビューでも言った『自分の価値を数字で決めることはよくないし、人の価値を数字とか優劣で判断しないでほしいと子供たちに伝えたい』という言葉です。数字とか優劣では見えないところに人のよさはあるんだよ、というのを伝えたいと思っています。

 人から『○○ちゃん、こういうところが得意だね』と褒められて自分のよさに気がついたり、『こういうところで頑張っているね』という言葉に励まされたりとか。そういう言葉で自信を持つことが、人間として育っていくことになると思います」

 数字だけで計られたくないという小平だが、見ている側としては、17年に1000mで実現したように、500mの世界記録を更新して欲しかったという思いはある。それを狙った19年3月のW杯ファイナル・ソルトレークシティ大会では、世界歴代2位の36秒47など36秒4台を連発。翌週のカルガリーは男子と同走非公認レースで36秒39を出したが、李相花(韓国)の36秒36には届かなかった。

 しかし、その時はすでに、股関節に違和感があり、片足ではスクワットもできない状態だった。

「そこは巡り合わせというのもありますし......。でも平昌五輪の標高41mのリンクで出した36秒94の低地世界最高記録は、標高1000m以上の高地換算をすれば、十分に世界記録に達していると思えたので。世界記録という数字が自分の肩書きになってしまうよりは、世界記録を目指すレベルで戦えたというので十分じゃないかと思えました。

記録は塗り替えられるし、人の記憶にも順位や記録はあまり残らないのかなと思います。今はどこへ行っても平昌で金メダルを獲ったことよりも、李相花との抱擁シーンのほうを言われることが多くて。小学生に『相花選手とのエピソードを教えてください』と言われて。金メダルじゃないんだなと思えるところが逆にうれしいというか、肩の荷が下ります」

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