スキージャンプ界のレジェンド、50歳の葛西紀明が明かす「モチベーション維持」と「もうひとつの夢」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by MATSUO.K/AFLO SPORT

【50歳という年齢を迎えて】

 13~14年シーズンからW杯最年長表彰台記録や、最年長優勝記録を更新し始めた葛西。2014年ソチ五輪では、ラージヒルで個人初となる銀メダルを獲得し、冬季五輪のジャンプに限れば66年ぶりに最年長記録も更新。試合後の記者会見では外国メディアから競技歴の長さを賞賛されていたが、彼自身は50歳までやると口にした。その50歳を昨年の6月に超えた今、競技の続行をどう考えているのか。

「ソチ五輪のシーズンあたりから、もう『どこまでもやれたらな』と思っちゃいました。何か、『辞める必要はないな』って。本当に燃え尽きたら辞めるかもしれないけど、まだ燃え尽きてないし(笑)。W杯に出れば楽しいし、賞金ももらえるし、みんなが『レジェンド頑張れ』って応援してくれるので。ジャンプ以外でもサッカーのカズさんも頑張っているし、ゴルフのフィル・ミケルソンも50歳を過ぎて優勝しているので、そういうアスリートがいてもいいんじゃないかなと。だから今も、ケガや故障がない限りはやれると思っています」

 ただ、20~21年シーズン以降、W杯から遠ざかっているなかで、国内でも上位に食い込めないようになれば気持ちも落ちてくるかもしれないと言う。それでも昨シーズン1月の雪印杯では2本ともヒルサイズ超えのジャンプを出して優勝し、HTB杯でも3位になった。さらに昨年9月の白馬サマージャンプ大会でも3位になっている。

「それが自信につながっていますね。それに去年の11月にチームで行ったスロベニア合宿では、一緒に行った竹内択(team taku)より飛距離が出て、自信を持って帰ってきたんです。でも12月の国内開幕戦の名寄の大会では、択が連勝して僕はダメだったから、『あれ、俺は択に負けてなかったんだけどな』と思って。そこから歯車が噛み合わなくなったんです。でも択は札幌大会のあとのW杯メンバーに入っているから、僕もちゃんと飛べれば入れるということだと思っています」

 飛び続けるには身体的な努力だけではなく、精神的な強さも必要だ。しかし、今の葛西はそれすらも楽しんでいるようだ。

「ちょっとしたことで(調子が)変わってしまうから、腹は立つけど面白いですね。本当は中学の頃とかソチ五輪の頃のように何も考えないで飛びたいけど、今はメチャクチャ考えています。でも、こういう経験も最近は楽しいと思うんです。悔しいけど、『あぁ、これも自分のジャンプ人生なんだな』と考えるようになりました。苦しい時期が続いて成績が出ないなかで悩んで、どうやったら飛べるんだろうと考えるのもジャンプ人生なんだと。

 だから、94年リレハンメル五輪のあと2度も鎖骨を骨折して、60m台でも怖くてゲートからスタートできずに歩いて降りていた頃とはまったく違います。あの頃はギラギラしていて、『原田さんや船木には絶対に負けない』という一心でやっていたと思います。今は、負けたくはないけど、『そのうち上がっていくから見てろよ』という気持ちでやっています」

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る