初場所で錣山親方が注目しているのは、愛弟子・阿炎のライバルと35歳のベテラン力士 (2ページ目)

  • 武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki

 ところで今回、入院して部屋を離れていたため、気がついたことがありました。それは、弟子の相撲を一歩引いた目で冷静に見られたことです。

 私の部屋では、本場所に行く前、そして帰ってきた時と、弟子たちは私に挨拶をするのですが、近くにいると頭ごなしに怒りの言葉を発してしまうこともあるんですよね。すると、それによって迷いが生じてしまう弟子もいたりします。

 でも、九州場所の時は、余計なことは言わず、メールのやり取りだけ。阿炎に対してもそうでした。それが、功を奏した部分もあるかもしれません。退院してからは、他の弟子にも具体的な欠点を指摘。「それを2023年の目標にしなさい」とだけ言いました。

 阿炎の優勝は、一番のプレゼントというか、お見舞いになりましたが、千秋楽が終わればすべては過去のこと。いつまでも浮かれていないで切り替えていくよう、本人には厳しく言い聞かせました。

 ですから、阿炎が冬巡業から帰ってきて久しぶりに顔を合わせた時も、あまり多くの言葉をかけることはありませんでした。さらに前へ進んでいかなければいけない男ですからね。

 さて、今場所"台風の目"になりそうな力士を挙げれば、ズバリ阿武咲(前頭8枚目)です。3日目の妙義龍戦の取り直しの一番、4日目の遠藤戦は、「これぞ、阿武咲の相撲!」と言える、すばらしい押し相撲でした。

 阿武咲は18歳で新十両に昇進。20歳で新入幕を果たし、21歳3カ月で三役昇進を遂げた実力派です。しかしその後、ヒザを負傷。番付を下げていました。ヤンチャな一面を持っていても、ケガをすると相撲をとるのが怖くなるものです。

 それでも、先場所くらいからその恐怖心を払拭できたのか、徹底した突き押しを見せるようになりました。以前のように闘志を表に出して、顔つきも勝負師らしくなってきました。

 ライバル視している阿炎の初優勝も刺激になっているのでしょう。「阿炎が優勝できるんだったら、オレだってできる!」――そんな負けん気がパワーとなって、今場所の好調にもつながっていると思います。

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