オリンピック公式映画はどうあるべきか。『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』の青山真也監督が語る意義と問題点 (3ページ目)

  • 小崎仁久●取材・構成 text by Kosaki Yoshihisa
  • photo by Kyodo News

青山監督が都営霞ヶ丘アパートを撮った理由

 映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』にはオリンピックの競技シーンや選手も出てこないが、東京五輪の記録映画と言っていい。

 近年のオリンピックの歴史は、都市整備の観点で見ると強制移住の歴史とも言える側面を持っている。スイスのNGO「居住権と立ち退き問題センター(COHRE)」によると1988年ソウル五輪以降、オリンピック開催によって強制的に移住させられた市民は200万人以上いると報告されている。そのうちの多くは2008年北京五輪(150万人以上)ではあるが、2016年リオデジャネイロ五輪でも約7万人が移住を余儀なくされた。

 東京五輪はそれらに比べるとはるかに人数は少ないが、問題なのは数の大小ではないだろう。オリンピック開催のために市民を強制移住させることは、IOCがオリンピズムの目的として掲げる「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」に矛盾するとも言えるからだ。

 この『都営霞ヶ丘アパート』が初めての長編ドキュメンタリー映画となった青山監督は次のように語る。

「市川崑監督の『東京オリンピック』はビルを解体するシーンから始まり、『......この創られた平和を夢で終わらせていゝのだろうか』というメッセージで終わります。そのオリンピックへの批判も含めた作品に衝撃を受けました。それで東京でのオリンピック開催が決まり、何かオリンピック映画を撮りたいと思ったのが始まりでした」

市川崑の作品から、「オリンピックやスポーツそのものではない事象にカメラを向けることで、逆説的に"オリンピック"が撮れるのではないか」と考えていた青山氏は、東京五輪のために強制的に移住させられる住民がいる話を聞く。

「オリンピックが彼らの生活を奪っていいのか、というジャーナリズムな視点もありましたが、同時に失われていくアパートの生活、コミュニティを記録したいという考えもありました」

 監督の言葉通り、アパートの住民の部屋に固定されたカメラは、淡々と高齢者の生活を静かな画と音だけで記録していく。作品冒頭では、立ち退きを迫られるアパートの住民のもとに、テレビ局のスタッフが取材に訪れる。オリンピックについて聞かれた高齢の女性は、立ち退きに懐疑的なことを言うが、問うたテレビのアシスタントディレクターは「オリンピックに反対というのはテレビでは放送できない」と女性に言った。

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