小平奈緒、現役最後のレースへ。「長野五輪の時のような空気感を再び作りたい」と思いを込めて滑る (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORT

 高いレベルの記録を維持しながらシーズンインをした小平は、11月のW杯ノルウェー大会では37秒08、37秒07と低地世界最高記録を連発。高地で滑る12月のカナダとアメリカの大会では36秒50の日本記録を筆頭に3レースとも36秒5台を出そろえ、1000mでも1分12秒09の世界記録を出した。

 勝負の場である平昌五輪では、開会式2日前のタイムトライアルで非公式ながら37秒05と万全な状態だった。

 平昌五輪で最初のレースとなった1500mは自己ベストで6位と上々のスタートをきった。次の1000mは2位で「1000mは12月に世界記録を出してはいましたが、『私は強いんだろうか』と、まだ信じられない部分があったのでそれが出てしまった」と振り返った。

 そして500m――。スケジュールとしては、1500mと1000mが中1日で行なわれ、そこから中3日で500mが行なわれた。長い距離から入たことで、体がスプリント仕様になりきれなかったという小平だが、500mの前日には、山中と一緒にスタート練習を行ない、70mまで全力で滑って感覚を蘇らせた。

 本番には、「リンクコンディションも自分の体の状態も確実によくなっている。タイムトライアルより速いタイムで滑れる感覚はあったから、戦うべきは順位ではなく、タイムや自分だと考えていた」と臨んだ。そして、狙いどおりに低地最高を塗り替える36秒94で金メダルに輝いた。

 結城コーチはそのレースを、「彼女は36秒という数字しか見えていなかったと思う。それさえ出せれば、例え負けても、誰になんと言われてもしょうがないと達観していて、プレッシャーさえ集中力に変えていたと思う」と振り返った。

 女子500mの新たな歴史を切り拓いた小平はレース後、地元開催で五輪3連覇を狙いながら2位になった親友の李相花が涙を流しながらウイニングランをしているところに駆け寄り、「あなたがいたから私も強くなれた」と伝えて抱き合い、一緒にリンクを滑った。強さや勝負だけではない、スポーツの持つ美しさを多くの人が感じたシーンだった。

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