楢﨑智亜、クライミング世界一。「智亜スキップ」で流れを引き寄せた (2ページ目)

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 それでも、東京五輪に向けて油断するところはない。

「今回は課題との相性がよかった部分がある。相性が合わなかったりすると順位を落とすので、まだまだがんばらないといけない」

 今大会の単種目とコンバインドのボルダリング課題で、楢﨑智亜だけが登れた課題は計4課題。一方で、楢﨑智亜が完登を逃したのは、単種目の準決勝と決勝での各2課題と、コンバインド予選で1課題の合計5課題。このうち単種目決勝以外の3課題を、ほかの選手は完登している。自分だけが登れた課題よりも、ほかの選手が登れた課題に視線が向き、すでに先を見据えている。

 目先の結果に一喜一憂せずに、優勝してもなお冷静に客観視して、強さを追い求める。大局観に立ってトレーニングを積み、ひとつひとつのスキルを伸ばしてきたからこそ、楢﨑智亜は大舞台になるほど力を発揮できるのだろう。

 それは、スピード種目の取り組みを見れば顕著だ。

 東京五輪でのスポーツクライミングの実施が決まったのは2016年。その後、3種目のコンバインドでの実施が決定すると、国内外の多くのクライマーから反論の声が上がった。登るという本質は同じでも、種目ごとの目的が異なるため、最高のパフォーマンスを発揮できないというのが理由だった。

 そうしたなかにあって、楢﨑智亜は五輪出場に向けて誰よりも早くから、スピードの練習に取り組み始めた。

「スピードはおもしろいし、楽しい種目だと感じたんですよね。それで練習量も、ほかの選手よりも多くできた。だから、適応も早かったんでしょうね」

 速くなるために研究して生み出したムーブ『智亜スキップ』は、今では多くの選手が取り入れるまでになった。

「コンバインドの選手じゃないのに、みんなに使ってもらえるのは光栄というか、歴史に名を刻めたかなと思いますね」

 そのスピードとボルダリングを武器にして、今大会は東京五輪の実施種目であるコンバインドで優勝を手にしたが、ここはまだ楢﨑智亜にとって通過点でしかない。東京五輪の目標を訊ねられると、次のように即答する。

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