IOCバッハ会長との対話。もう喜んで五輪を開催する国はない (3ページ目)
当時のルラ大統領は部屋中を駆け回り、キスとハグを振りまいた。ブラジル国旗をマントのようにまとったその姿は、「南半球にはあまりいないスーパーヒーロー」にみえたと、バルバッサは記している。
ホスト国の政治家は、オリンピックには大きな経済効果があると言い立てる。ショッピング中毒の観光客が大挙して訪れ、ホテルは満室になり、開催都市は数十億人のテレビ視聴者に向けて無料で宣伝することができ、新しく設けられる交通機関や競技場は将来にわたって利益をもたらす......と。
問題はそこから始まる。オリンピックのために新しい会場を造るには、そこに住んでいる人々をどこかへ移さなくてはならない。オリンピックは開催都市が貧しい住民に対し、いつにも増してつらく当たる機会になることが少なくない。
中国の共産党政権は、「胡同(フートン)」と呼ばれる細い路地にある古い家々を、特にオリンピックを開かなくてもいつでも壊すことができた。それでも2008年の北京オリンピックは、その動きに拍車をかけることになった。
2010年1月、ルラがコペンハーゲンではしゃぎまくってから3カ月後、リオデジャネイロ市は「移設する110のコミュニティーのリスト・その1」を発表したと、バルバッサは書いている。多くの世帯は割に合わない補償金をもらうか、遠い郊外に代わりの家をあてがわれただけだった。すべてはオリンピックの名のもとに正当化された。リオデジャネイロは、格差の激しい今の時代を象徴するオリンピック開催都市だ。
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