【月刊・白鵬】大鵬に並ぶ32回目の優勝に挑む「横綱の志」 (2ページ目)

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

 その慣例に私もこれまでは倣(なら)ってきたのですが、今回は稽古で相手にしたい力士に声をかけて、私が所属する宮城野部屋に呼んでみたのです。すると、大関の琴奨菊をはじめ、幕内の豊ノ島や魁聖など、多くの力士が稽古に来てくれました。その際は、非常にいい稽古ができましたし、自分なりにもいい感覚を取り戻すことができました。慣れ親しんだ場所で存分に稽古できたのがよかったのかもしれませんね。

 もちろん、出稽古にも行きましたよ。ただここ最近、"ここ"というところで黒星を喫してきた、豪栄道が所属する境川部屋に出向いたときには、あいにく豪栄道が怪我の治療のために不在。空振りに終わってしまいました。

 ともあれ、固定観念にとらわれず、いろいろな稽古パターンを試みるのも悪くないですね。今後もさまざまなことにチャレンジして、なお一層精進していきたいと思っています。

 肝心の九州場所は、初日から満員御礼が出るほどの大盛況です。なんでも、初日の満員御礼は17年ぶりのことだそうで、私としてもうれしい限りです。なにしろ、たくさんのお客様の前で相撲を取れることは、全力士の喜びでもあります。誰もが「いい相撲を取ろう」という気概を見せていますし、今場所も先場所に劣らぬ白熱した戦いが期待できるのではないでしょうか。

 そんな中、私にはこの場所で大きな記録がかかっています。ご存知のとおり、通算優勝回数です。秋場所で千代の富士関(現・九重親方)の通算31回という記録に並んだ私は、ついに今回、尊敬してやまない大鵬さんの通算32回(歴代1位)という大記録に挑むことになりました。

 29回、30回、そして31回目の優勝も、常に苦しい戦いでした。知らず知らずのうちに記録を意識して、自分の相撲が取れないことさえありましたが、その場所ごとに心掛けていたのは、「優勝回数に恥じない相撲をしよう」ということだけでした。

 今場所も、決して楽な戦いにはならないでしょう。実際、日々厳しい取組が続いています。しかし今回、私は対戦相手にも、記録へのプレッシャーにも、負けないつもりでいます。昨年亡くなられた大鵬さんが「Ⅴ32を成し遂げてくれ!」と、きっと応援してくださっているのではないか、と思っているからです。その声援に応えるためにも、一年納めとなるこの九州場所で、なんとしても大記録を達成したい。今は、その気持ちが強いです。

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