世界のトレンドからいけば国立競技場は「改修」である

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by AFLO SPORTS

10月特集 東京オリンピック 1964の栄光、2020の展望(5)

 試合や競技が行なわれない日のスタジアムは、寂しく感じられる。普段はコンクリートの塊を連想させる異物のように見えるスタジアムが大半を占める中で、国立競技場をはじめとする神宮外苑のスポーツ施設は、そうした違和感を周辺に与えていない。むしろ、高い精神性を発している。明治神宮外苑という由緒正しい場所に、バランスよく、きわめて自然に収まっている。

前回のコラムはこちら>新国立競技場に賛成できない最大の理由)

解体を待つばかりの国立競技場解体を待つばかりの国立競技場 国立競技場の魅力は「外苑の杜」との一体感にある。都心のド真ん中にありながら、上質な環境に包まれたスタジアム。スポーツの価値を高めてくれる場所だ。神宮外苑の公園としての空間的な価値も、スポーツと共存していることでより高まっている。スタジアムとその周辺がこれほど相乗効果を発揮し、見事に調和している例は珍しい。世界広しと言えどもザラにない大都会、東京の「良心」と言っても言いすぎではない。外国人を「お・も・て・な・し」するにはもってこいの環境にある。

 国立競技場は「日本スポーツの聖地」と言われるが、それは、神宮外苑という厳(おごそ)かな場所に存在していることと、大きな関係がある。

 その貴い魅力に気づいている日本人はどれほどいるだろうか。新国立競技場の問題を語る時、これは抑えておかなければならない点だ。

 ザハ・ハディッドさんが設計した新国立競技場が、郊外に建設されるなら問題ない。斬新なデザインで知られるスタジアムと言えば、ヘルツォーク&ドゥムーロンが設計したミュンヘンのアリアンツアレーナ(2006年ドイツW杯開幕戦の舞台)を連想する。電飾装置が組み込まれたパネルがスタジアム全体を覆い、試合によって色を変えるインパクト溢れるスタジアムだが、これは完全な郊外型だ。スタジアムの周囲には何もない。

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