ジャンプ、葛西紀明7度目の五輪で「狙うは金メダル」 (5ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • 千葉茂●写真 photo by Chiba Shigeru(人物) photo by AFLO SPORT(競技)

 そんな落ち着きを持たせている理由のひとつに、世界のトップクラスで戦えているという自信もある。長野五輪後から始まったジャンプスーツ開発合戦の中で、成績が出ない原因を「自分たちの技術が遅れているのでは」と不安に感じていた。しかしジャンプスーツの規定が、2012~2013年シーズンに体のサイズ+2cmに変更されたところで、スーツ開発合戦が沈静化し、自分を含めた日本選手の成績が上がった。「技術では負けていない。これまでダメだったのはジャンプスーツが原因だったんだ」と確信出来たのだ。

 そして昨シーズン、プラニッツァ大会のフライングヒル(ヒルサイズ185m以上)で4位になったことも、その自信を大きく膨らませた。

「(2013年)1月の札幌大会では条件さえかみ合えばという50%くらいの自信だったけど、プラニッツァの最終戦は100%近く『勝てる』と思ったんです。練習でも飛べていたし、前日の団体戦でも一番飛んでいたから、他の選手も『絶対にノリアキが勝つだろう』と思っていたようです。でも試技で219mを飛んで転倒し、ケガをした上にスキーを折ってしまった。痛み止めを打ってもらって新しいスキーで飛んだんです。結局は4位だったけど、いい終わり方が出来たと思います」

 そこで得た自信と、バンクーバー五輪以降保てるようになった心の平安。このふたつが今季のW杯最年長表彰台や、10戦中8戦が7位以内という安定感につながっている。まさにいつ勝ってもおかしくない調子を維持しているのだ。

「僕のジャンプ人生を振り返ってみれば、95%以上は負けているんです。でもその悔しさより、勝った時の嬉しさの方が数倍も数十倍も大きいんです。だからまたそれを味わいたくて続けているんです」

 仲間である伊東大貴や竹内択から「ノリさん、まだまだやれますよ」と言われている葛西は「こうなったら50歳までやれそうですね。もういつ辞めようが同じだから、気持ちが萎えるのが先か、痛めている膝が壊れるのが先か。そこまで付き合ってみたいと思いますね」と明るく笑う。

 また五輪の金メダルだけではなく、永遠のライバル・岡部に塗り替えられたW杯最年長優勝記録(09年クオピオ大会・38歳)の奪還という目標もある。

 葛西はまだ、優勝して味わえる大きな喜びと感動を、自分の競技人生に付け加えようとしている。精神と技術の成熟度が増してきた今季、7度目の出場となるソチ五輪の舞台で輝く雄姿がまもなく見られるかもしれない。

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る