「曲に体の細胞が全部反応している!」高橋大輔の演技に長光歌子が感じた才能とは (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【魅了されるプログラムになる理由】

ーーそんな高橋さんが苦労したプログラムはなかったんですか?

 シニアに上がりたての頃(2004−2005シーズン)、ショートプログラムで『剣の舞』をタチアナ(・タラソワ)のところで仕上げてもらったんです。タチアナはあんな感じで激しく動けないので、リンクではアイスダンス五輪チャンピオンだったエフゲニー・プラトフさんが実演してくれたんですが。

 サーペンタイン(※蛇という意味で、リンクを大きくSの字で滑りながら行なうステップシークエンス)をプログラムに入れていたんですが、プラトフでさえ何度も転ぶほど難しく、「これ、できるの?」と思ってしまいました。大輔もかなり転んでいましたが、最後にはプラトフもタチアナも感心するほどに仕上がりましたね。

ーー高橋さんは、プログラムそのものを演じきるパワーがありました。

 どのプログラムも、それぞれ頑張っていましたね。大輔がすごいと思うのは、曲(のリズム)をカウントするだけじゃなくて、(曲にある)キャラクターとかを自分の体に染み込ませてから、それを発散するというところで。これは、なかなかできないことです。だから、彼のプログラムは何度もリピートして見てしまう、何遍も見たいプログラムになるんです。

ーーでは、プログラムのイメージをもっとも具現化した作品とは?

 どのプログラムも私は好きですが......札幌でのNHK杯(2011年11月)、ショートプログラムで演じた『イン・ザ・ガーデン・オブ・ソウルズ』は、本当に素敵でしたね。体のでき上がりもよかったんですが、曲に体の細胞が全部反応しているわ!って。その年の全日本選手権は4回転トーループ+3回転トーループでノーミスでしたが、NHK杯の3回転+3回転のほうが好きです。滑りがすごく柔らかくて......。

ーー高橋さんのスケーティングは、女性的な柔らかさも伴い、時に可憐さすらあります。

 大輔は体が硬いんです。もっと柔軟をやればよかったなって思ってしまうほど。でも、演技は体が硬いようには見せないんです。柔軟性がないようには見えない。彼は、柔らかく見せることができるんです。イメージを滑りで具現化できるというか。柔らく見せられるのは才能ですね。彼よりも体が柔らかい選手は多いんですが、硬そうに見えてしまう場合がほとんどなので

ーー表現力も非凡でした。

 面白い漫画や小説の世界に入り込むと、まったく何も聞こえない、見えなくなって、あっという間に終わることがあるじゃないですか? 大輔のスケーティングもそういうことがたくさんあって。

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