坂本花織、常に勝利を期待される経験が財産に「無になって集中」して全日本3連覇 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【3連覇直前に不安と緊張で涙】

 それでも、優勢で臨んだ12月24日のフリー直前には心が乱れ、午前中の公式練習では涙を見せていた。

「3連覇という目標を達成したい気持ちと、ちゃんとやらなきゃという気持ちが本当に大きくなりすぎて......。公式練習の時は息がすぐ上がるくらい緊張して、曲かけ(練習)も思うようにいかなかった。

 ジャンプがうまくハマらなかった時はどうしても投げやりになってしまったり。中野先生にアドバイスをもらえば直るというのはわかってはいるけど、できないというイライラした感情のままで先生のところに行くと、どうしてもバトッ(口論し)てしまうので。自分的には『今言わなくていいのに』という内容の言葉を言われたから、その思いを伝えたらめっちゃ怒られて。いろんな感情が混じりすぎるとすぐ涙腺がゆるくなる。ダメでした」

 SP終了時点で、優勝は目の前にある状況だった。中野コーチは「彼女(坂本)の場合は順位というより、よりいいものをやろうとして自分にプレッシャーをかけてしまう」と説明する。

 それでも、本番では気持ちを切り替えた。ふたり前に滑ったSP3位の千葉百音が、フリーをほぼノーミスの滑りで合計209.27点としていたが、坂本は無心だった。何も考えずに滑り出し、「気がつくと終盤のコレオシークエンスで氷に手をついてスライディングしている状況だった」という。

「無になって集中できたというのか、練習に近い感覚で滑れた。練習の時は別に何も考えず、次はこれ、次はこれって一つひとつ淡々とやっている感じです」

 安定したジャンプで、GOE加点を着々と積み上げていく。中盤と最後のコンビネーションスピンはレベルをとりこぼして基礎点を下げたが、フリーの得点は154.34点と、非公認ながら、シーズンベストの得点。10月のGPシリーズ・スケートカナダの得点を3点以上高めた。合計で2位に23.85点差をつける圧勝劇だった。

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