樋口新葉が手にした余裕 再起で初めて気づいたスケートの「面白さ」を語る (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

●初めて感じた「面白さ」

 静かな日常を過ごし、今シーズンからリンクに戻ってきたわけだが、1年間のブランクを埋めるのは簡単ではない。

「(今年)4月1日からジャンプを跳び始めて、3カ月になりますけど、最初はダブルどころか、シングルも全然うまく跳べませんでした。ステップも、バランスがとれなくて」

 樋口は、再生の日々をそう振り返る。

「5月のゴールデンウィークのアイスショーに向け、だんだんジャンプが戻ってきました。もちろん、一番いい状態をお客さんに見てもらうべきなんですが、現状を見てもらって変化を感じてもらって楽しんでもらえればって。

 そういう調整をしながら、ショー明けくらいからトリプルも跳べるようになってきたんです。トリプルアクセルも、また跳べるようになったらって思います」

 滑り初めは不安もあったが、それ以上にスケートと向き合うことで新鮮な愉悦を覚えたという。

「(復帰後は)このまま続けて、シーズンに入って集中して結果を残せるのか。不安はあったんです。でも、楽しみたいっていう気持ちが出てきて。できることが増えるにつれ、それが強くなってきました。

 体力を戻すところは、きついなというのはあったんですが、そこは五輪の時の厳しさを思い出すと、面白いなとも思えたりして、また結果につながったらいいなって思います」

 樋口は五輪メダリストになったことで、ひとつの境地にたどり着いたのかもしれない。自信というと使い古された表現だが、本当の意味で自らを信じられるようになったのではないか。覇気をみなぎらせるよりも、泰然(たいぜん)とした空気をまとうようになった。

「小さい頃から、スケートをがむしゃらにやってきました。楽しさよりも、一生懸命にやってきて。このジャンプを跳びたい、とか。でも、一個一個、こういうこともできるようになるという面白さに気づくようになって。それは今までは感じたことがなかったことです」

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