宇野昌磨がNHK杯SPで見せた「スケート人生の賜物」。その裏には「完璧を求めすぎるな」というコーチの言葉があった (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

本番で見せたスケート人生の賜物

 11月18日、ショートプログラム(SP)で宇野は『Gravity』を滑っている。6分間練習から飛ばしていた。何本もジャンプをきれいに降り、前日とは別人のようだった。火星を思わせるエンジのきらめく衣装が、よく映えていた。

 冒頭、苦しんできた4回転フリップを3.61点というGOE(出来ばえ点)で鮮やかに降りている。次の4回転トーループは着氷できず、コンビネーションもつけられなかった。

 ただ、少しもひるまない。トリプルアクセルは2.29点のGOEだった。ネコ科の動物が弾むように、あるいは重力から解き放たれたように、スケーティングで曲の世界観を伝えた。トータル91.66点は今シーズンの自己ベスト。SP2位は、悲観することはないスタートだ。

 そして成績以上に、中身の充実があった。

「引き続き練習したい、というプラスの思いになって良かったです」

 宇野は、雲間から光が差したように小さく笑みを浮かべた。スケートを追求する自分と邂逅(かいこう)したようだった。

「あんなフリップはこっち(札幌)に来て、一度も跳んでいません。試合だけで跳んだもので、練習から試合のフリップではないなと。ただ、スケート人生で長くフリップを練習してきた賜物だとも思います。

 トーループは失敗しましたけど、いつもどおりに跳び、着氷だけ失敗で。だから、なんで失敗?とは思っていません。降りられると思った場所が、降りられる場所ではなくて。6分間(練習)で靴が硬かったのをゆるめた結果、フリップはうまくいって、トーループはうまくいきませんでした」

 宇野は常に論理的な答えを探した。冷静に語る姿は、彼自身が一番、「宇野選手」を観察・考察しているようだった。

「僕はフワッとしたものはあまり好きではないんです。たとえば、勝負強さ、とかって言うのも、それは運がいいだけというか。メンタルはすごいけど、自分にとってはいいことではない。練習してきたことが試合に出るべきで。もちろん、試合で失敗したいわけではないですが。今シーズンはショート、フリーともにミスが目立ちます。でも試合ごとに課題を見つけ、次の試合で活かせています。1シーズンを通して、完成したものを見せられるように」

 宇野は徹底的に自分と対峙する。そこに答えはある。この日、SPでトップに立った山本草太が「スケートの向き合い方を学びたい」と言ったように、宇野は大勢の若手の見本となっている。

 11月19日、フリーで宇野は再び自分と向き合う。己をコントロールし、必然で勝てるか。ひとつのプログラムを滑るたび、王冠の輝きは増す。

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る