現役アイドル兼プロレスラーの渡辺未詩 情緒不安定状態で組まれた絶対エースとの一戦に「ここで変わらないと、たぶん一生このままだ」 (4ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

【「ここで変わらないと、たぶん一生このままだ」】

 同年9月から、正式にプロレスの練習が始まった。プロレスラーとしてのデビューは2018年1月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会と決まっている。

 渡辺のモットーは「全力」。それまでは、どんなことに対しても全力で向き合って生きてきた。プロレスの練習も全力で頑張ろうと意気込んでいたが、やればやるほど「私、何をやってるんだろう?」と落ち込むようになった。

 筋肉をつけなければいけないのも嫌でしかたなかった。今でこそ"筋肉女子"がブームで、女性が筋トレをするのが当たり前になっているが、当時の渡辺にとっては「華奢が正義」。ジムで泣きながら筋トレをした。

「デビューしたらもう辞められない。『他のアイドルになるなら、筋肉がつく前に1分1秒でも早く辞めたほうがいい』と、らくちゃんと練習帰りにずっと話してましたね」

 ギリギリの状態で迎えたデビュー戦。スポーツ経験があった渡辺は、他のメンバーよりも頭ひとつ抜けていた。しかし、もともとプロレスラー志望だったヒカリに知識で負けている。デビューの翌週にはヒカリに丸め込みで負け、丸め込みの意味もわからぬまま負けたことに悔しさを覚えた。頑張りたいけれど、どこを目指したらいいかわからない。逃げることもできず、深みにはまった。

 6月27日、新宿FACEにて「アップアップ東京女子(プロレス)(仮)」という興行が開催されることになった。アプガプロレスのメンバー4人が、それぞれ先輩レスラーとシングルマッチを行なう。ラクと対戦することになった辰巳リカは、大会前の会見でこう言った。「アイドルもプロレスも、全力でやっているようには見えない」――。

「悔しかったですね。たぶん人生で一番悔しかったと思います。全力が自分のモットーだったはずなのに......。悔しすぎて、SHOWROOMの配信中にガチ泣きしました。告知の途中で『どうしたらいいかわかんないし!』って。情緒不安定でしたね」

 大会当日、渡辺は山下実優とシングルが組まれた。山下は東京女子プロレスの絶対エース。恐怖心もあったが、「ここで変わらないと、たぶん一生このままだ」と思い、やれることはすべてやった。悔しさ、もどかしさ......初めてすべての感情を試合でぶつけた。

 敗れはしたが、観客は大いに沸いた。大会終了後にファンから「感動した」「いつか倒そうね」といった言葉を掛けられ、初めてプロレスで充実感を得た。それまで何を目指せばいいかわからなかったが、「山下実優に勝てるようになるくらい頑張ればいいんだ」という目標ができた。

 人は、きっかけひとつで劇的に変わることがある。渡辺は山下との一戦をきっかけに、劇的な変化を遂げる――。

(後編:坂崎ユカの涙で気づかされたこと「ユカさんは世代交代を望んでいない...」>>)

【プロフィール】
●渡辺未詩(わたなべ・みう)

1999年10月19日、埼玉県生まれ。159cm。2017年8月、「アップアップガールズ(プロレス)」のオーディションに合格し、8月27日、@JAM EXPOでステージデビュー。2018年1月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会にて、ラク&ヒカリvs.ヒナノ&ミウ戦でプロレスデビューを果たす。2019年11月3日、辰巳リカとのタッグ「白昼夢」でプリンセスタッグ王座を戴冠。2022年10月9日、インターナショナル・プリンセス王座を戴冠。2024年1月6日、山下実優の持つプリンセス・オブ・プリンセス王座の挑戦権を賭けたバトルロイヤルで5選手による闘いを制し、挑戦権を得た。X:@uug_p_miu

【大会情報】
■大会名:GRAND PRINCESS '24
■日時:2024年3月31日(日)開場13:00 開始14:00
■会場:東京・両国国技館
■対戦カード
プリンセス・オブ・プリンセス選手権試合
<王者>山下実優 vs. 渡辺未詩<挑戦者>
※第13代王者4度目の防衛戦。
※ほか数試合予定。

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