井上尚弥を鍛え上げる八重樫東と鈴木康弘 ふたりに白羽の矢が立った理由と効果とは?

  • 本間 暁●取材・文 text by Homma Akira
  • 山口裕朗●撮影photo by Yamaguchi Hiroaki

見る者多くを驚嘆させる比類なきパフォーマンスは、日頃の鍛錬があるからこそ。そして今の井上尚弥のフィジカル面を2年前からつくり上げているのが八重樫東と鈴木康弘というふたりのトレーナーだ。共にこれまでの経験で得た叡智で、時に「怪物」を追い込むことで井上の潜在能力を引き出してきた。
12月26日、マーロン・タパレス(フィリピン)とのスーパーバンタム級王座4団体統一戦(東京・有明アリーナ)を迎える井上尚弥の凄さは、どこにあるのか。ふたりのトレーナーの視点から語ってもらった。

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【モンスターを追い込むふたりのトレーナー】

 猛牛さながらの巨体を誇るサンドバッグが、ズシンドシンと重低音の唸りを上げる。10秒、20秒──それを奏で続ける"モンスター"井上尚弥は、いつしか苦悶の表情を浮かべ、ついには雄叫びを上げて、終了と同時にその場にへたり込む。

 無呼吸状態で、一発一発をしっかりと強打するサンドバッグ連打。「尚弥のあんなに疲れた姿を見るのは初めて」と大橋秀行会長も驚きを隠さない。あの井上尚弥が渾身のパワーでぶん殴り続けるのだから、負荷のかかり様は推して知るべし、だろう。

 試合はおろか、どんなにキツイ練習でさえも、歯を食いしばることこそあれど、辛い表情すら見せるのを拒否してきた。そんな"気合の男"の意地とプライドが、いともたやすく果ててしまう。

「はいはい、まだまだ!」

「もっともっと!」

 前から後ろから、拍手で連打のテンポを煽り、ジム内に響き渡る大声で檄を飛ばす。井上尚弥が苦しむ姿を眺めながら、「してやったり」とばかりに満足気な笑みを浮かべる。

 八重樫東(40歳)と鈴木康弘(36歳)。拓殖大学の先輩後輩、それぞれ162cm、186cm好対照の体躯を持つ両トレーナーが現在、尚弥、その弟・拓真、従兄・浩樹という"井上トリオ"のフィジカルトレーニングおよび、試合前合宿の指揮を執る。

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