佐山聡が反則連発の「実験」 キックボクシングの試合で敗戦もアントニオ猪木は「よくやった」と褒めたたえた (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 東京スポーツ/アフロ

【反則連発の敗戦にも、猪木は「よくやった」】

 運命のゴング。佐山は、胸に秘めた思いをすぐに実行に移す。

 コステロの懐に入ってフロントスープレックスのように投げ、さらにはバックドロップも敢行した。佐山はタックルでコステロを捕獲し、投げも成功。しかし、当然それは反則で、減点こそ取られなかったが、投げが決まった後にレフェリーが即ブレイクした。

「タックルも投げも反則です。ただ、そこは重要じゃなくて、繰り返しになりますが、タックルで相手の中に入れるかどうかが問題だった。タックルに入るには、相手のパンチとキックをかいくぐる必要がある。だけど、入れる自信はあったし、実際にタックルから投げてコステロを頭から落とすことができました」

 打撃系の相手にタックルして投げるという佐山の実験は、現在の総合格闘技につながる「新しい格闘技」の息吹だった。しかし試合は2ラウンド以降、最終6ラウンドまで毎回ダウンを奪われる展開になり、判定で敗れた。

「試合後に、ある人から『お前、だらしねぇな』と言われましたよ」

 確かに試合には敗れた。ただ、「タックルが通じるかどうか」という佐山の実験は、完全ではなかったかもしれないが成果を上げた。そんな佐山の思いを理解しない、心ない言葉に19歳の若者は傷ついた。

 そこに希望の光を灯したのは、試合を観戦した猪木さんの言葉だった。

「よくやった」

 猪木さんは、敗れはしたものの玉砕覚悟で闘った佐山を褒めたたえたのだ。

「この試合前に、猪木さんから特別に言葉をかけられることはありませんでした。だけど試合後は『よくやった』と褒めていただきました。『猪木さんは僕がやろうとしていたことをわかってくれていたんだ』と、ものすごく嬉しかったですね。あのひと言が、格闘技をやろうとしていた僕にとって希望になったんです」

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