アントニオ猪木が「町でケンカしてこい!」 佐山聡がある弟子への叫びに見た「猪木イズム」の原点 (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 東京スポーツ/アフロ

【ある弟子に「町でケンカしてこい!」】

 私生活では優しい師匠だったが、リングでは別人だった。練習でたるんだ選手がいれば"鉄拳"で気合を入れた。ただ、佐山は練習でも厳しい指導を受けたことがなかったようだ。

「これは、自分で言うと口幅ったい(くちはばったい/身の程しらずの偉そうな口の利き方)んですが......新日本の練習は厳しかったんですが、僕は入門した時からついていくことができたんです。その中で、他の選手が殴られる姿を見て、『ああいうことは、やってはいけないんだ』と学んでいきました」

 デビューしてから、試合について猪木さんに評価、指導されたこともなかったという。ただ、他のレスラーへの厳しい指導を見て、「"燃える闘魂"が理想とするプロレスラー像」を理解した。

「ある先輩レスラーに、猪木さんが『お前、町でケンカしてこい!』と言い放ったことがあったんです。その先輩は、道場のスパーリングも強いし、練習も真面目ですばらしい方でした。ただ、試合になると、その性格が災いしたのか会場が沸かないんです。猪木さんはその先輩に対して、『お前のプロレスより町のケンカのほうが面白い。お前はケンカの仕方がわかっていない』と指導しました。

 僕は、その言葉を聞いて『そうか!プロレスはケンカでいいんだ』と思いました。『ケンカでいいんだったらリングの上で徹底的にやってやる』と決意したんです。それは、若手時代の僕にとって強烈な言葉でした。今も鮮明に覚えていますね」

 今の時代では「町でケンカしてこい」という指導が許されることはないだろう。"昭和"だから通用した教えかもしれない。その指導の是非は問わないが、「ケンカ」には抑えきれない本気の怒りが根底にある。猪木さんは「プロレス」を「ケンカ」に重ねることで、重要なのは本気の怒りと真剣な闘いであることを弟子に訴えたかったのだろう。

 プロレスとは、闘いである。佐山は「それこそが猪木イズムの原点です」と断言した。

「猪木さんがプロレスに闘いを追求したのは、やはり力道山先生から受けた影響だと思います。力道山先生の教えをまっすぐに受け止めた。猪木さんが、それほど純粋な人だったということでしょう。それと、プロレスを蔑視する世間への反発もあったと思います。『プロレスの市民権を取り戻す』と燃えていましたから」

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