井上尚弥が激戦のPFPで1位に返り咲くためには? 2階級目の4団体統一と「もうひとつの条件」 (2ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • 北川直樹●撮影 photo by Kitagawa Naoki

【井上とクロフォードの差はごくわずか】

 クルーザー級で4冠統一後にヘビー級に階級を上げ、体格で上回るデュボアをKOで仕留めたウシクの強さも圧巻ではあった。ただ、2020年11月にもKO負けを喫していたデュボアは「最高レベルの対戦者」とは考えられていなかったこと、敵地での試合を続けてきたウシクにしては珍しくAサイド(主役)での勝利だったことなどから、付加価値の大きな勝利ではなかった。

 さらに、その試合の第5ラウンドにはデュボアの微妙なローブローでウシクに休憩が与えられたが、後に「正当なパンチだったのではないか」と抗議されて物議を醸した。それらの要素から、最新のウシクの勝利はクロフォード、井上のそれを上回るものではなかったと判断するのは妥当だったのだろう。

 こうしてクロフォード、井上、ウシクというトップ3が新たに選定されたが、最新試合で尋常ではない強さを誇示したクロフォードと井上の差はごくわずかだ、という意見が根強い。アジアのボクシングに精通する『リングマガジン』の編集長、ダグラス・フィッシャー氏は8月下旬、ポッドキャスト「The Three Knockdown Rule」に出演した際、あらためてこう述べている。

「井上対フルトン戦が終わったあと、私は有頂天だった。井上はスーパーバンタム級への転級初戦で、多くの無敗選手を下してきた無敗の統一王者(=フルトン)をはるかに上回ってしまった。あれこそがパウンド・フォー・パウンド王者のあるべき姿だ。

(クロフォードが勝利した)スペンスがフルトンよりも(PFPの)上位にランクされていたのはわかるが、特定の勝ちパターンを持たないスペンスより、フルトンのほうが優れたオールラウンドボクサーだった。少数意見なのはわかっているが、私には井上の勝利のほうが印象的だった。私の中では今でも"モンスター"こそがPFPのNo.1だ」

 フィッシャー氏が自ら述べている通り、少なくとも現時点で井上をPFPのトップに据えている人は多くはないかもしれない。ただ、『リングマガジン』のランキング選定委員のひとりであるアダム・アブラモビッツ氏が「クロフォードと井上、どちらをトップにしても間違いだとは思わない」と記事内で記していた通り、両雄の実力、戦歴は甲乙つけ難い。

 さらに、同選定委員のディエゴ・モリージャ氏も「今回はクロフォードが1位でいいと思うが、井上がトップに戻り、そこに止まり続けるのはもう時間の問題だ」と記述するなど、日本ボクシング界の最高傑作がPFPトップの"後継者"として認識されているのも事実である。

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