KAIRIが「人前に出るのもブーイングも怖い」とWWEで感じた恐怖 涙が出るほどある選手の言葉に救われた (3ページ目)

  • 大楽聡詞●取材・文 text by Dairaku Satoshi
  • photo by Getty Images

【NXT とスマックダウンの違い】

――NXTでの活躍が評価されて、2019年4月にはスマックダウンに昇格しましたね。

KAIRI:昇格のタイミングは、まさにトップシークレット。上層部のみで会議しているんだと思います。ある日コーチから、「次のスマックダウンのハウスショー(テレビ中継がない、会場の観客の前での公演)に行って」と声をかけられて。NXTから1年半でスマックダウンのリングに上がれるとは想像していなかったし、光栄なことでした。

――KAIRI選手から見て、NXTとスマックダウンの違いはなんですか?

KAIRI:NXTとスマックダウンは180度違う世界。NXTは「学校」です。すべて集団行動。練習もジムもマイク練習も時間割が組まれ、そのスケジュールでみんなが動きます。遠征もみんなで集合し、バスに乗って会場に行ってご飯を食べる。

 それが、スマックダウンに昇格すると全部なくなるんですが......。飛行機のチケットと試合会場の地図だけが送られてきて、今度はひとりで行動することになります。レンタカーも自分で手配して会場に向かう。例えば、4日連続で違う会場での試合が組まれたら、まずは次の会場近くのホテル予約。試合後に、夜10時から深夜1時まで車を運転してホテルに行って就寝。そういったことの繰り返しでした。

――移動以外で、ランク付けが上のスマックダウンやRAWと、NXTの違いはありましたか?

KAIRI:スマックダウンやRAWはストーリーを大事にするというか、大きなドラマの中で試合が繰り広げられます。試合中はもちろん、試合以外のパフォーマンスも大事になる。バックステージでも常にカメラが回っているので気を抜くことができません。

 さらにWWEは、世界中に配信されているので、誰が見ても楽しんでもらえるように「このレスラーといえば、この技」と印象づけるため、使用する技をあえて減らしました。NXTはコアなファンが喜ぶプロレスですが、スマックダウンやRAWは世界中のファンに届けるので、テレビで観てもファンが追いつけるテンポ感を大切にしました。

――WWEではASUKA選手と、スマックダウンで「ザ・カブキ・ウォリアーズ」を結成し、2019年10月にWWE女子タッグ王座を獲得しましたね。

KAIRI:ASUKAさんとはプロレスでもプライベートでも仲がよくて、バックステージでもずっと喋っていました。番組のカメラマンさんたちも、私たちの撮影シーンは日本語で話しているのに、笑いっぱなしでしたよ。

――タッグを組み、常に隣にいたASUKA選手のすごさとは?

KAIRI:例えば、五角形のチャートで「技術・表現力・キャラクター・マイク・精神力」の能力があったとすると、ASUKAさんはすべての能力がとても高いんです。

 入場の瞬間から観客を自分の世界に引き込み、誰と闘ってもいい試合になるし、キャラクターも完成されている。本当にASUKAさんからたくさんのことを学びました。

(後編:WWEと日本のプロレスの違い...反則、カウント、観客への意識など>>)

【プロフィール】
KAIRI(かいり)

1988年9月23日生まれ、山口県出身。155cm。50kg。高校1年でヨットを始め、インターハイ、国体、インカレで上位に。大学1年でジュニア世界選手権日本代表となる。その後プロレスに興味を持ち、2011年8月にスターダムに入門。翌年1月7日にデビューした。2015年2月にスターダムの選手会長に就任し、同年3月にスターダム最高峰のベルト「ワールド・オブ・スターダム王座」を初戴冠。2017年6月にWWEと契約し、リングネームを「カイリ・セイン」に。2017年9月、「WWEメイ・ヤング・クラシックトーナメント第1回大会」で優勝。2018年8月、NXT女子王座を獲得した。2019年4月、スマックダウンに昇格してASUKAと「ザ・カブキ・ウォリアーズ」を結成。同年10月、WWE女子タッグ王座を獲得したのち、日本に帰国。2022年3月、5年ぶりにスターダムに参戦し、同年11月に新設されたIWGP女子王座の初代王者に輝いた。

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