「あれはアントニオ猪木でなければ見せられない瞬間だった」実況アナ舟橋慶一も釘づけ アリ戦の前に行なわれた異種格闘技戦 (2ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

【猪木だから見せられたバックドロップ3連発】

 ただ、アントニオ猪木の闘いにかける情熱を伝えることは、いつもと変わらなかったという。

「猪木さんが『プロレスの市民権』をすごく気にしていたのは肌で感じていました。師匠の力道山が亡くなったあと、世間から『プロレスはショーだ。スポーツじゃない』と言われ続ける中で、アントニオ猪木が目指したのは本当の強さの追求でした。その真剣な強さを、プロレスで表現しようとしていた。その気持ちは常にこちらにも伝わってきました。

 これは私の実況の原点なんですが、テレビ朝日はもともと『日本教育テレビ』という民法の教育局でしたから、実況でも猪木さんの『諦めない心』『あくなき探求心』『闘いへの魂の雄たけび』などを、教育的な表現でどのように実況していこうかと常に考えていました。初めての異種格闘技戦となったルスカ戦でも、根っこにあった思いは同じでしたね」

 緊迫の異種格闘技戦。ゴングが鳴ると、放送席の舟橋は猪木の動きに釘づけになった。

「ルスカの動きも相当に速かったことを覚えています。さすがオリンピックの金メダリストで、最強の柔道家たる姿を見せつけました。しかし、炸裂したのは『心技一体』となった猪木魂。強い者への憧れを募らせた観衆と呼応して、一世一代の大勝負という気迫がみなぎっていましたね。『プロレスは強い』ということを、リング上でフルに表現していました」

 フィニッシュは、猪木のバックドロップ3連発だった。

「猪木さんは、ルスカの脳天をマットに突き刺しました。あれだけの投げを、しかも三連発できる肉体の強さと技術。あれはアントニオ猪木でなければ見せられない瞬間でした」

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