「フロントにタイガー・ジェット・シン様がいらっしゃっております」 呼び出された全日本実況アナは輪島戦について熱弁した (3ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 木村盛綱/アフロ

【輪島に関する質問への馬場の反応】

 しかし、若林は「ただ、肝心の輪島さんが......」と続けた。

「正直なところ、もっとなんとかしてほしいと思いました」

 輪島は、デビュー直後こそ懸命なファイトを展開し、視聴率にも貢献した。だが、試合を重ねるごとに輝きは消えていった。若林アナはこう回想する。

「馬場さんは、輪島さんについて『体が固いんだよ』とよくおっしゃっていました。相撲は体を丸めて小さく受け身を取るんですが、プロレスは背中を思いっきりマットにぶつけるように大きく受け身を取ります。相撲時代の癖が残って、その受け身が覚えられなかったんでしょう。おそらく、それで体の調子を悪くして、試合も精彩を欠いたんじゃないかと。

 さらに、練習もあまりしなくなり、他の選手のセコンドにもつかなかった。そういうところが、おそらく馬場さんは不満だったんじゃないかと思います」

 若林アナは、実況を務めた輪島の試合で、馬場の不満が態度に出た場面を目の当たりにする。

 それは、テレビマッチの放送席でのことだった。「正確な試合と会場は覚えていない」とのことだが、輪島が精彩を欠いたファイトをしたことは記憶しているという。

 それでも試合後、実況の若林アナは次につながる希望を見出そうと、解説を務めた馬場にこう尋ねた。

「馬場さん、輪島なりに頑張ってましたよね?」

 すると、馬場はその問いに答えず席を立ち、マイクへ向かって「どうも」とだけ告げて控室に戻っていった。

 放送後、若林アナは自らの発言に馬場が不満を覚えたと感じ、馬場の控室を訪ねて「若造が生意気を言って申し訳ありませんでした」と謝罪した。

「すると馬場さんは、『プロレスは、いろんな人がいろんな感じ方をしていい』と言ったんです。あの馬場さんの言葉に私は救われましたし、プロレスの奥深さを教えられました」

 若林アナは、輪島という超大物のデビューを通じて、馬場からプロレスを学んだのだった。

(敬称略)

◆第5回:「タイガーマスク、マスクを脱いだぁ!」素顔に戻った三沢光晴は、天龍退団後の全日本プロレスに新しい時代をもたらした>>

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